『電脳コイル』から15年 磯光雄監督が『地球外少年少女』で描く宇宙時代の子供たち

 磯光雄監督が帰ってきた。仮想空間が普及した社会の姿を見せたテレビアニメ『電脳コイル』から15年ぶりとなる新作アニメ『地球外少年少女』で、地上350キロメートルの低軌道を周回する宇宙ステーションを舞台に、月で生まれた2人と地球から来た3人の少年少女が、絶体絶命の危機に挑むスリリングなストーリーを描く。1月28日から前編『地球外からの使者』、2月11日から後編『はじまりの物語』を順に劇場上映。Netflixでも配信され、世界の磯光雄ファンに宇宙時代の人類のあり方を見せつける。

『地球外少年少女』(c)MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

「宇宙ってこんなに面白い場所なんだということを知ってほしいと思って作りました」

 1月9日に日本科学未来館で開かれた先行上映イベントで磯光雄監督が話したとおり、『地球外少年少女』は宇宙が、地上ではできない体験をさせてくれる場所だと強く感じさせてくれる作品だ。

 舞台は2045年。月で生まれ、地球へ移住するために宇宙ステーションで重力に慣れるリハビリを行っていた14歳の少年・登矢と幼なじみの少女・心葉は、地球からステーションを見学に来た大洋、美衣奈、博士の3人とともに、ステーションと彗星の衝突事故に巻き込まれてしまう。管制室の大人たちから離れた場所に閉じ込められ、ネットも使えない状況で子供たちは、次々と起こる危機に命がけで立ち向かっていく。

 この危機が、どれも宇宙ならではの大変さに溢れている。壁を隔てて外は真空のステーションに彗星が当たれば、当然起こるのが空気の流出だ。電気が切れて室温が低下する中をシェルターにたどり着き、簡易型の宇宙服を探し出し、どうにか息をついたかと思ったら今度は脱出用のシャトルに乗るために、宇宙遊泳をしなければいけなくなる。

 観ている分にはスリリングで面白い展開だが、実際に遭遇したら恐怖で足がすくみそうなシチュエーションを、宇宙のことを知り尽くした登矢が先導して乗り越えていく。初めはそんな登矢がAIを違法に発達させたと非難し、対立していた大洋だったが、危機の中で協力し、やがて理解し合うようになっていく。

『電脳コイル』 (c)磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

 子供たちが力を合わせて危機に挑む。振り返れば『電脳コイル』もそうした骨格を持った作品だった。そして同時に、近年メタバースと呼ばれて注目を集めているVR(仮想現実)や、『ポケモン GO』のヒットで認知されるようになったAR(拡張現実)、それらが重なり合ったMR(複合現実)が日常レベルで普及した世界がどのようなものかを、高い想像力で描いてみせた先駆的なアニメだった。

 驚くのは、MRが発達した先に起こる事態をも想定し、危機として描き出してみせたことだ。それは、実在しない電脳ペットとお別れする悲しみであり、うち捨てられたAR空間に意識を閉じ込められる恐怖といったもの。今は希望に溢れ、新時代の金鉱のごとくもてはやされているメタバースにも、『電脳コイル』に登場するような暗部が潜んでいるかもしれない。そう思わせる先見性と緻密な設定で、15年経った今も色あせない輝きを放ち続ける。『電脳コイル』は、BSフジで2月6日まで再放送が行われ、各種サイトで配信も行われており、改めて観てその価値を感じてほしい。

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