竹村夫妻は『カムカム』大阪編の屋台骨だった 数々の“反転”に込められた作り手たちの祈り

『カムカム』大阪編の屋台骨だった竹村夫妻

 良きにつけ悪しきにつけ、人は生まれるときに親を選ぶことができない。でも、その後成長し大人になるにつれて、関わる人間は自分で選ぶことができる。母、そして雉真家との確執を抱えて大阪にやってきたるいが「ここで働かせてほしい」と、生まれて初めて深く関わることになる“他人”の竹村夫妻に頭を下げるところから、るいの人生が大きく動いた。

 対する竹村夫妻も「親代わり」となってるいを見守るが、決して実の親ではないことをわきまえて、踏み込まない。けれども、平助と和子からたびたびこぼれ出る、果てしない「るい愛」。るいばかりが助けてもらって、与えてもらったわけではない。子どものいない竹村夫妻にとって、真面目でひたむきで、よく働き2人を思いやり、常に真心で接するるいが、可愛くてしかたなかったはずだ。

 「娘とショッピングをしてみたかった」という和子が、るいのワンピースを選んだ日の笑顔が忘れられない。錠一郎が結婚を申し込みにきて、平助が「娘をよろしゅう頼みます」と言うとき、「孫ができるんか」と目を細めるとき、竹村夫妻がるいからたくさんの幸せをもらったことがわかる。「関係性」とは、一方向ではない。常に双方向だ。そして「できる」ものではなく「作っていく」ものだ。

 るいと竹村夫妻の関係は、「100年のファミリーストーリー」の中にあって、血縁に依拠しない“家族”の尊さを体現していた。そして、親を持たず「家庭を持つのが怖かった」と語るるいが、錠一郎と新たな家族を作っていくことの、優しい“予行演習”であったように思う。錠一郎との結婚にとまどうるいに和子がかけた「(店や家なんて)ただの形や」という言葉は、るい、そして安子が岡山で囚われていた「家制度の呪縛」から解き放ってくれるものだった。

 当然のことだが、ドラマを観ている視聴者にはいろんな立場、様々な状況に置かれた人がいる。実の子供を持たない竹村夫妻とるいの関係性は、「血縁がなくても“家族”は作れる」「血のつながりがなくても、バトンを渡すことができる」という、希望を表しているように思えた。るいは、安子や稔(松村北斗)からのみならず、竹村夫妻からも「優しさ」のバトンをもらい、胸に抱いて、錠一郎とひなたの道を歩いていくだろう。

 誰かの幸せを祈ることのできる人は、自分も幸せになれる力を持っている。橘家から安子、安子からるいに引き継がれた「美味しゅうなれ」のおまじないと同じように、竹村夫妻はいつでもるいに「幸せになれ、幸せになれ」と心の中で語りかけていたことだろう。和子が願ったように、いつかまた、るいと錠一郎は子どもを連れて大阪に顔を出してほしい。平助と和子が、こぼれんばかりの笑顔で迎える姿が、今から目に浮かぶではないか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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