コロナ禍の影響もより浮き彫りに? 2021年のドキュメンタリー映画を振り返る 

2021年をドキュメンタリー映画で振り返る

『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』(c)2019 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata Productions

 ファッション関係のドキュメンタリーでは、昨年9月17日に公開された『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』が面白かった。その名前と洋服は世界中の人々に知られていながら、公の場にはいっさい姿を現すことなく、あらゆる取材を断りながら2008年に引退したベルギーのデザイナー、マルタン・マルジェラ。その彼が「顔を写さないこと」を条件に撮影を許可したという本作で、思いのほか穏やかな声色のもと、マルジェラ自身が語る自らの創作の原点とは。そんな彼が、人気絶頂の最中で一線を退いたのは、なぜだったのか。コロナ禍で外出機会が減った昨今、改めて「洋服とは何か」「装うとは何か」を問う意味でも、非常に意義深いドキュメンタリー映画だったように思う。

『世界で一番美しい少年』(c)Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

 その他の「人物ドキュメンタリー」としては、1971年の映画『ベニスに死す』で世界を魅了した「絶世の美少年」ビョルン・アンドレセンが、その「現在」から「過去」を振り返る『世界で一番美しい少年』が強く印象に残っている。近年はアリ・アスター監督の映画『ミッドサマー』に出演したことも話題となったビョルン。世界的な映画監督であるルキノ・ヴィスコンティに見出され、若干15歳にして突如世界中の人々から、賞賛と羨望のまなざしを受けるようになったこのスウェーデン人は、一体どこからやってきて、熱狂の最中に何を感じ、その後どんな人生を歩んできたのだろうか。今日の目からすると、児童虐待的な側面も少なからずあったのだろう。けれども本作は、必ずしも「告発」の映画ではない。むしろ、数奇な運命を辿った(無論、そこには多くの知られざる不幸もあった)男性の人生を通じて、「美しさとは何か」、「なぜ人は美を求めるのか」という根源的な問いを投げ掛ける映画であり、「当事者/非当事者」のいびつな非対称性を浮き彫りにする映画でもあるのだった。

 そして昨年11月、フレデリック・ワイズマン監督の『ボストン市庁舎』(11月12日公開/274分)、原一男監督の『水俣曼荼羅』(11月27日公開/372分)など、著名なドキュメンタリー作家たちの長尺の新作が公開される中、それらを超える3エピソード合計8時間弱(!)という驚きのボリュームで、『ザ・ビートルズ:Get Back』の配信が、Disney+でスタートした。1969年初頭のわずかひと月にも満たない期間、延々とカメラを回し続けた当時のドキュメンタリークルーが残した57時間以上の未公開映像と150時間以上の未公開音源を、映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソンが、約3年という歳月をかけて復元・編集したという本作。これはまさに、驚くべきドキュメンタリーだった。最新のテクノロジーを駆使して、とても50年以上も前のものとは思えない極上の映像と音源でよみがえったビートルズ最終期の1カ月。彼らはいかにして伝説の「ルーフトップ・コンサート」へと至ったのか。ビートルズの音楽を愛する人はもちろん、「バンド」が生み出す音楽の「マジック」に魅せられたことのある人は、是非とも観てほしい一本だ。

 そして、最後に紹介するのは、昨年12月24日より先行公開がスタートした『香川1区』だ。昨年『なぜ君は総理大臣になれないのか』で注目を集めた大島新監督が、同じく小川淳也議員に密着取材をしながら、2021年の10月31日に行われた衆議院選挙に至るまでの「戦い」の日々と、その「結果」を記録した本作。ただし本作の主人公は、タイトルのごとく、その後立憲民主党の代表選に立候補するなど一般的な知名度を増していった小川淳也というひとりの政治家ではなく、彼の地元である「香川1区」そのものなのだろう。小川の対立候補である自民党の平井卓也(元・デジタル改革担当大臣)はもちろん、その土地で暮らす人々の「声」に耳を傾けながら、果てはこの国の民主主義の「在り方」を問うような試み。それは、感情面においても、さまざまな「ゆらぎ」の瞬間を捉えた、迫真のドキュメンタリーとなっているのだった。

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