佐藤健は時代の体現者 『るろ剣』『竜とそばかすの姫』で2021年“エンタメ界の顔”の代表に
この2作だけでも十分に“エンタメ界の顔”だといえるが、佐藤の躍進はさらに続く。7月には、世界待望の細田守監督最新作『竜とそばかすの姫』にて声優を務めた。しかも演じたのは、作品のキーパーソンであり、タイトルロールの一人ともなっている“竜”の役。本作はアニメーション作品だ。直前の佐藤の活動に触れたのが『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』だったこともあって、この驚きは大きい。なぜなら、さんざん述べてきたように、『るろうに剣心』ではその身体能力に魅せられていたからだ。一方、『竜とそばかすの姫』では身体で表現することができない。しかし佐藤は、声の芝居だけでも十分に魅せてくれたのだ。普段よりもさらに低く放たれた彼の声は、本作にミステリアスに作用した。作品の盛り上がりに大きく貢献したといえるだろう。
そして10月に公開されたのが、主演映画『護られなかった者たちへ』。ここで佐藤は“さらなる”というか、“今年最大級の”というか、とにかく多くの観客の“感嘆の声”を引き出したことと思う。
彼が演じたのは、東北大震災で被災した孤独な青年・利根泰久。物語は震災と生活保護にまつわる問題を扱ったもので、社会派映画といえる作品だった。世の中に対するあらゆる憎しみを背負ったような利根の目つきが印象的で、佐藤はセリフよりも佇まいでこの人物を表現してみせた。孤独な青年・利根が初めて人の温かさに触れた際に見せた微笑みや、人々との交流の中で変化していくさまも非常に滑らかなものだった。しかしやはり何より強く脳裏に刻まれたのは、利根の叫び。佐藤は叫び声を上げることによって、スクリーン越しに劇場全体を振動させたと思う。なぜなら利根という人物は、2021年現在の不安定な社会を生きる私たちを象徴するような存在だったからである。私たちの心情を代弁した彼の叫びに共振したのは筆者だけではないはずだ。
こうして振り返ってみると、やはり佐藤健という俳優が“エンタメ界の顔”の中心に立っていたことが分かる。しかもエンターテイナーでありながら、現代人の代弁者となった点も大きい。ドラマへの出演はなかったが、2022年はヒットドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)のスペシャル版で新年早々に顔を見せ、Netflixの配信ドラマ『First Love 初恋』では満島ひかりとダブル主演を務める。もちろん、映画の出演情報も続々と開示されていくことだろう。
■リリース情報
『るろうに剣心 最終章 The Final』
Blu-ray&DVD発売中
出演:佐藤健、武井咲、新田真剣佑、青木崇高、蒼井優、伊勢谷友介、土屋太鳳、三浦涼介、音尾琢真、鶴見辰吾、中原丈雄、北村一輝、有村架純、江口洋介
原作:和月伸宏『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督・脚本:大友啓史
音楽:佐藤直紀
主題歌:ONE OK ROCK「Renegades」
発売・販売元:アミューズソフト
製作:映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会
(c)和月伸宏/ 集英社 (c)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会