2021年の年間ベスト企画

のざわよしのりの「2021年 年間ベストアニメTOP10」 長編シリーズと秀逸なオリジナル作

長期シリーズ完結作

 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(庵野秀明総監督)と、『シドニアの騎士 あいつむぐほし』(瀬下寛之総監督)は、テレビシリーズで長年愛された作品の完結を見届ける点で共通している映画だが、『エヴァ』は足掛け25年、『シドニア』は7年と歳月に隔たりがある。しかしどちらのファンにとっても、完結編は胸に去来する物があったはずだ。『シン・エヴァ』は2007年公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』から始まった新劇場版シリーズのみならず、昔のテレビアニメ版とその劇場版の世界も内包して、各キャラクターの救済を描いて幕を閉じる。『シドニア』もまた、多くの登場人物たちのその後までキッチリ描いたエピローグをもって長き戦いに終止符が打たれた。両作品ともスタート当時から追いかけていたファンには、万感胸に迫る年だったのではなかろうか。

漫画原作の見事なアニメ化

『映画大好きポンポさん』(c)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

 歌劇団のスターを夢見て奮闘する少女たちの群像劇『かげきしょうじょ!!』と、大きな館に住む顔のない貴族を巡るミステリー『シャドーハウス』は、共に劇伴(サウンドトラック)の重要性を改めて気付かせてくれたアニメ。声優の演技やアニメーションの出来栄えは勿論だが、音楽の効果で原作が持つポテンシャルを何倍にも引き上げた点で、原作付きアニメの成功例として高く評価したい。楽しいまんが映画『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』(2013年)で脚本、絵コンテ、演出を兼任して個人的に注目していた平尾隆之監督の新作『映画大好きポンポさん』は、映画作りの苦労と楽しさを登場人物たちを通して描いた秀作。映画でなくとも、モノ作りをしている人々の心には映画プロデューサーのポンポさんのメッセージがきっと響くはず。

 今回の10本の選出には漏れてしまったが、時点にテレビアニメ『月とライカと吸血姫』(横山彰利監督)も挙げておきたい。世界初の有人飛行で宇宙へ向かう吸血鬼の少女と、彼女の監視役を命ぜられた軍人の淡い恋を絡めたライトノベルのアニメ化で、国家のエゴに翻弄されながらも次第に距離感を縮めて行く2人のロマンスと、吸血鬼のイリナを演じる林原めぐみの演技が非常に良かった。

■公開情報
『アイの歌声を聴かせて』
全国公開中
原作・監督・脚本:吉浦康裕
共同脚本:大河内一楼
キャラクター原案:紀伊カンナ
総作画監督・キャラクターデザイン:島村秀一
声の出演:土屋太鳳、福原遥、工藤阿須加、興津和幸、小松未可子、日野聡
歌:土屋太鳳
アニメーション制作:J.C.STAFF
配給:松竹
(c)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会
公式サイト:ainouta.jp
公式Twitter:@ainouta_movie

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