麦倉正樹の「2021年 年間ベストドラマTOP10」 ますます問われる地上波ドラマの存在意義

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2021年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第2回の選者は、無類のドラマフリークであるライターの麦倉正樹。(編集部)

『大豆田とわ子と3人の元夫』(c)カンテレ

1.『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)
2.『おかえりモネ』(NHK総合)
3.『俺の家の話』(TBS系)
4.『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)
5.『コントが始まる』(日本テレビ系)
6.『青天を衝け』(NHK総合)
7.『サ道2021』(テレビ東京系)
8.『孤独のグルメ Season9』(テレビ東京系)
9.『消えた初恋』(テレビ朝日系)
10.『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系)

 コロナ禍の情況を受けて、韓国ドラマをはじめ海外の作品を配信で視聴する人々が増えている中、ドメスティックな「地上波ドラマ」の存在意義は、ますます問われるようになっている。人気者あるいは注目の若手俳優が出演している以上の意味が、果たしてそこにあるのか。そのような、いささかシリアスな状況認識のもと、今年のドラマを振り返ってみたところ、やはり強く印象に残ったのは、恐らく同様の問題意識を持っているであろう脚本家たちが、果敢に挑んでみせたオリジナル作品だった。

 1位に選出した『大豆田とわ子と三人の元夫』は、いわずもがな、松たか子をはじめとする魅力的なキャスト、坂東祐大による極上の音楽、そして名手・坂元裕二による、先行き不明でありながら、毎回見事な着地を決める物語の展開に、毎週毎週気持ち良く翻弄された。地上波ドラマで、ここまでのクオリティのものが作れるのか。そんな驚きと共に、改めて惜しみない賛辞を贈りたい。正直なところ、今年のドラマでは――否、もっと言うならば、ここ数年の地上波ドラマでは、図抜けた作品だったと思う。

 ドラマ及び映画『きのう何食べた?』(テレビ東京)の記憶も新しい安達奈緒子が、自身の脚本作でもある『透明なゆりかご』(NHK総合)の清原果耶を再び主演に迎えた連続テレビ小説『おかえりモネ』も、ひとつの長い作品として、強く印象に残っている。「ある時代を生きた女性の一代記」という、やや定番化した朝ドラのフォーマットを大胆に打ち崩しながら、ひとりの女性の成長を、当事者/非当事者の歩み寄りや理解を通奏低音として(それは『きのう何食べた?』にも共通している)、ていねいに描き切った本作。それは今、我々がさまざまな領域で抱えている問題の、ひとつの表象でもあるのだろう。主演の清原をはじめ、蒔田彩珠、浅野忠信、鈴木京香、西島秀俊&内野聖陽の『きのう何食べた?』コンビなど、役者たちの好演も光った本作だが、個人的には「りょーちん」こと「及川亮」役を演じた永瀬廉の「たたずまい」が強く心に残っている。

 能とプロレス、そしてホームドラマという前代未聞の「お題」を長瀬智也という実に華のある俳優の「花道」として描き切った宮藤官九郎の『俺の家の話』、そして映画『逆光』が公開中である渡辺あやの『今ここにある危機とぼくの好感度について』も、全5回と短いながらも、痛切な問題意識を痛烈なユーモアでくるんだ一作として記憶に残っている。生田斗真主演の『俺の話は長い』(日本テレビ)が最高に面白かった金子茂樹が、菅田将暉と有村架純という映画『花束みたいな恋をした』(脚本:坂元裕二)の主演コンビをはじめ、注目の若手俳優たちをそろえて生み出した『コントが始まる』は、その作り込みの細かさというか、毎回決められた「フォーマット」のようなものが、時折やや窮屈に感じることがあったけれど、「今ここにある青春」の終わりを描いた作品として、毎週楽しく観ることができた。坂元裕二、安達奈緒子、宮藤官九郎、渡辺あや、金子茂樹――結局のところ上位に選出した5本は、いずれも個人的に信頼している脚本家のオリジナル作品ということに相成った次第である。

関連記事