『映像研には手を出すな!』が支持され続ける理由 アニメ文化の促進に寄与した稀有な一作に

 そんな『映像研には手を出すな!』は、第24回文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門で大賞を受賞した。

 そもそも、文化庁メディア芸術祭とは、アート・エンターテインメント・アニメーション・マンガの4部門において優れた作品を表彰するとともに、多くの方に作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の祭典のこと。

 アニメーション部門で大賞を獲得した歴代の作品は、『千と千尋の神隠し』(第5回、2001年)、『時をかける少女』(第10回、2006年)、『河童のクゥと夏休み』(第11回、2007年)などが挙げられる。今回、『映像研には手を出すな!』はどこを評価されたのだろうか。

 審査員の佐藤竜雄氏(アニメーション監督・演出・脚本家)の贈答理由は以下の通りである。

制作者あるある。準備中のラフなイメージボードの方が実際の映像よりキマっていて「この絵のまま動かせば良かったのに」とガックリすること。丁寧につくり上げた映像も確かに良い。しかし、思いのままに鉛筆を走らせ、淡彩で色を乗せた絵が動くのを想像するのも楽しい。商業アニメがセルを使用していた当時は不可能に近かったが、デジタル化した今、本作品は実現した。その結果、何を生んだか? キャラクターや美術のルックも相まって作品内の現実と空想がないまぜになり、登場人物たちがイメージを共有していくさまを視聴者は台詞ではなく感覚で理解するという希有な映像体験を味わっていたのではないだろうか。しかもそれは毎週続く。キャラへの愛着、彼女たちの夢想への共感も増していく。全話数で初めて1本の作品であるというテレビアニメの不利を、本作品はむしろプラスに転じている。タイトルとは裏腹に、映像づくりへの愛おしさといざないにあふれているのが素晴らしい。(佐藤 竜雄)
(文化庁メデイア芸術祭 公式サイトより)※1

 この贈答理由で印象的だったのは、「キャラクターや美術のルックも相まって作品内の現実と空想がないまぜになり、登場人物たちがイメージを共有していくさまを視聴者は台詞ではなく感覚で理解するという希有な映像体験を味わっていたのではないだろうか」という箇所。まさに、『映像研には手を出すな!』の魅力が詰まったコメントである。

 どんなアニメにするか、設定を構想しているみどりの頭の中をアニメで表現しているため、「現実と空想がないまぜ」になっていく様子を視聴者も一緒に体験できる。それにより、一緒にアニメを作っている感覚になり、「彼女たちの夢想への共感も増していく」。

 こうした作品中の描写や表現力に関しては、過去5年間で大賞を受賞した作品(『海獣の子供(第23回、2020年)』、『La Chute(第22回、2019年)』、『この世界の片隅に(第21回、2018年)』、『夜明け告げるルーのうた(第21回、2018年)』、『君の名は。(第20回、2017年)』)も共通して評価されていた。

 その一方、『映像研には手を出すな!』が過去5年分の大賞受賞作品と異なる点は、

(1)映像体験を通して視聴者を彼女たちの夢に巻き込み、「共感性」を持たせる作品
(2)アニメーションの「作り手」にフォーカスした作品
(3)TVアニメシリーズで受賞した作品

である。

 まず、(1)「共感性」に関しては、先ほど引用した佐藤氏のコメントの通りである。

 アニメーション制作の途中で起きたトラブルやミスを乗り越え、なんとか完成へと進めている3人の様子を観ているうちに、いつの間にか自分も映像研の一員として作品の成功を心から願っているのだ。

 (2)アニメーションの作り手にフォーカスした作品については、2021年10月3日に池袋HUMAXシネマズで行われた、『映像研には⼿を出すな!』が大賞を獲得した理由や魅力について語ったトークセッションでの、審査員・須川亜紀子氏(横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院都市文化系教授)のコメントが印象的だ。

「(『映像研には⼿を出すな!』は)アニメーションを作る様子を描く作品で、アニメーションでどう表現するのかがメタ的に描かれていることから、アニメーションの文化の促進に寄与するのではないかというところが高評価だった」
(アニメーション部門大賞『映像研には⼿を出すな!』トークセッション〜Vol.1より)※2

 以前アニメーション制作会社で制作進行職として働いていた筆者にとっても、この作品が文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞したことは、作品が生まれる尊さや作り手の労力が評価されたように感じて、非常に嬉しく思う。『映像研には⼿を出すな!』をきっかけにアニメーション制作の仕事を志す人が現れたら大変喜ばしい。

 さらに、(3)について、『映像研には⼿を出すな!』はTVアニメシリーズとしては10年ぶりに大賞を獲った作品である。

 須川氏によると、TVアニメシリーズは劇場版と比べて、エピソードが始まるタイミングと終わるタイミング、クライマックスがどこにあるか、タイミングや仕様が違う、という点から文化庁メディア芸術祭で大賞を獲ることはなかなかないらしい。

 それでも今回TVアニメシリーズである『映像研には⼿を出すな!』が大賞を受賞したのは、「アニメーションの文化の促進に寄与」している作品といった側面が大きいのかもしれない。

 『映像研には手を出すな!』はこうした3つのポイントで文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞。そして、多くの人を魅了した作品だ。シーズン2の制作は現時点で発表されていないが、再び『映像研』の3人に会える日が待ち遠しい。今後、3人はどう成長していくのか、どうアニメーションを制作するのか、続きが楽しみである。

参考

※1 文化庁メデイア芸術祭 公式サイト 「第24回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞贈答理由」
http://archive.j-mediaarts.jp/festival/2021/animation/works/Keep_Your_Hands_Off_Eizouken/
※2  文化庁メデイア芸術祭 公式サイト「アニメーション部門大賞『映像研には⼿を出すな!』トークセッション〜Vol.1」
https://www.online24th.j-mediaarts.jp/talk-session/701

■放送情報
TVアニメ『映像研には手を出すな!』
NHK Eテレにて、毎週日曜19:00〜再放送中
原作:大童澄瞳(小学館『月刊!スピリッツ』連載中)
キャスト:伊藤沙莉、田村睦心、松岡美里、花守ゆみり、小松未可子、井上和彦
監督:湯浅政明
脚本:木戸雄一郎
音楽:オオルタイチ
キャラクターデザイン:浅野直之
美術監督:野村正信
色彩設定:中村絢郁
撮影監督:関谷能弘
編集:齋藤朱里
音響監督:木村絵理子
アニメーション制作:サイエンス SARU
OPテーマ:chelmico「Easy Breezy」
EDテーマ:神様、僕は気づいてしまった「名前のない青」
(c)2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会
公式サイト:eizouken-anime.com
公式Twitter:@Eizouken_anime

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