『カムカム』演出が振り返る“金曜の劇的展開” 上白石萌音の絶妙な匙加減が生んだ名シーン

 第5週までの放送を終えたNHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。第3週の第15話での安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)の結婚、第4週の第20話での稔の戦死、第5週の第25話での安子の交通事故と、3週にわたり金曜日の放送話では“劇的”な展開が描かれている。

 いずれの週も特筆すべきは、初代ヒロイン・安子を演じる上白石萌音の演技力だ。初登場シーンで演じた安子は14歳。実際の上白石の年齢は現在23歳だが、まったく違和感のない佇まいで、稔に恋して変化していく安子の心を見事に演じきっていた。そして、第5週では、初登場時の天真爛漫な幼さのようなものは消え、一人娘のるいを守る完全な母親の顔へと変化している。

 第4週を振り返った際、演出の安達もじりは「上白石さんの芝居を観たら、その雰囲気や佇まいにカメラが近寄れないほどのオーラがあったんです」(参照:「上白石萌音さんでなければ成立しなかった」 『カムカム』演出が語る第4週に込めた思い)と語っていた。その言葉が誇張ではないとはっきりと分かるほどに、第25話の上白石萌音は特に凄まじかった。

 稔の父・千吉(段田安則)が安子とるいの今後を心配して訪ねてくる。2人を心配して、孫であるるいに十分な教育を受けさせたいという思いから岡山に帰ってくることを提案。しかし、安子はその言葉を受け入れることができず、2人でも生活が問題ないことを証明するために、無理な働き方をするように。そして、ラストでやってくるのが自転車移動中の交通事故だ。

 上白石は視点が定まらない目の動きで、まさに“心ここにあらず”を体現していた。稔に自転車の乗り方を教えてもらい、弾ける笑顔で自転車に乗ることができるようになった喜びを表現していた頃とは別人のようだった。極めつけは事故に遭い、倒れた後のその表情。何かに取り憑かれたような、観ていて怖いとすら思うような、目を開いた表情。一体、このシーンはどのように撮影されていたのか。演出の橋爪紳一朗は次のように語る。

「上白石さんは皆さんもご存知の通り、本当にお芝居がうまい方です。ちょっとした匙加減もすぐに表現してくださるので、演出の立場としてはだからこその難しさもあります。悲しいときに悲しい表情をするのは、極端な言い方になってしまいますが簡単です。それよりも、心の深い部分にあるものと表情に出てくるものが多少ズレていた方が、その人物の憤りや本音の部分が表現できるのではないかと考えていました。上白石さんには、芝居における“溜め”の部分と“爆発”させる部分に関して相談しています。台本の設計上もその流れはできているのですが、見事に毎回それを昇華してくださっています。

 第25話のラストシーンは特殊なクレーン機材を使って撮影いたしました。リハーサルで上白石さんの表情を見たとき、クレーンが緩く旋回しながら撮影することで、彼女が表現されている心情ともうまくリンクすると感じて、この形になりました。上白石さんには、こういう風に撮ります、とは事前に伝えてはいなかったんです。とりあえずやってみましょうと。実際に撮影してみて、その表情には驚かされました。言葉では説明しづらいといいますか、絶妙な匙加減なんですよね。本当にすごいなと驚かされるばかりです」

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