中村梅雀、時代劇を伝えていくための覚悟 「いいものを作り続けるしかない」

中村梅雀、時代劇を伝えていくための覚悟

 時代劇專門チャンネルのオリジナル時代劇『殺すな』に主演する中村梅雀。人情味ある役の印象が強いが、映画『孤狼の血 LEVEL2』で演じた役の鮮烈さは忘れられない。『殺すな』では秘密を抱えながら長屋にひっそり暮らす浪人・小谷善左エ門を演じている。ひと色では描けない人間の多彩さを見事に演じる名優は、若い俳優やスタッフに時代劇の所作などを教えることも多いと語りながらもその長いキャリアに甘んじることなく日々アップデートも欠かさない。その語り口も存在感も明るく生命力にあふれていた。(木俣冬)

井上昭監督作品にはどんな役であっても出演したかった

――今回、『殺すな』の出演を決めた理由を教えてください。

中村梅雀(以下、中村):名匠・井上昭監督作品であることです。監督の作品であれば通行人でもなんでもいいから出たいと思っています。監督の作るものもご本人もすべてが魅力的なんです。井上監督ファンは映画界にたくさんいて、監督作品に参加したいと大勢の俳優やスタッフが熱望しています。今回、柄本明さんが撮影の見学に来て何か役はないかと言っていましたよ(笑)。

――井上監督の作品のどんなところが魅力的ですか?

中村:現場の緊張感ですね。ワンカットで撮ることが多いんです。カメラを長回しで俳優の芝居をじっくりと撮ることで情感が生まれます。時代劇專門チャンネルの井上監督第1作目の『鬼平外伝 夜兎の角右衛門』での長回しが圧倒的で、あれを観た役者たちがこぞって監督作に出たいと言いだしたんですよ。現場で「ここはワンカットで行こう」と監督が言うと、スタッフが一斉に動いて対応する。二十代の新人からベテランまで幅広いスタッフが全員、監督の呼吸や目線を察知してやろうと集中力を総動員している。そこに身を置くことで僕自身もいい緊張感を得ることができます。濃密で味わい深い時代劇ができました。

――俳優として常に刺激を得たいという思いがあるのでしょうか?

中村:それはあります。『殺すな』では柄本佑さんと安藤サクラさんと共演しまして、柄本明さんや奥田瑛二さんを親の持つ俳優一家のDNAを感じましたし、キラキラしていて、ふたりの演技には心が踊りました。若い世代の表現方法が新鮮なんですよ。例えば、見せ場のシーンだと僕らの世代は顔をカメラに向ける意識がありますが、柄本さんはそういうことをしないんです。あるシーンでとても印象的な芝居をしながらもうつむいたままで、実に自然。僕もそういう発想を取り入れていきたいと思いました。また、若い世代ではないけれど、出来上がった作品を観たら本田博太郎さんの演技も面白かったです。さすが、こう来たか、と楽しみました。

――中村さんの演じた善左エ門は過去に凄絶な体験をしていながらあくまで穏やかな人格者のように見えます。

中村:人間ってそういうものですよね。葛藤を表に出さないからこそ人間なんです。ふだん、私はこういう辛いことを体験しているんだとか、悲劇の主人公だなんて表に出さないですよね。だいたい見た目と違って「あの人がそんなことをするとは思ってなかった」ってことが多い。事件の加害者になった人も、近所の人が「そんな人じゃなかったのに……」とよく証言していますよね。そういう一見ではわからないのが人間だなと思っています。

――『孤狼の血 LEVEL2』で演じられた刑事にはまさにそういう感じの意外性がありました。

中村:あの役はおもしろかったですね。

――『殺すな』では筆作りで糊口をしのぐ浪人。ちょっとした仕草が町人ではなく武士の出だと思わせるところが梅雀さんの凄さのひとつと感じました。

中村:武士には武士の構えがあり、それも階級によって違います。町人、農民……とそれぞれ演じる上で身体の使い方が違うことは、歌舞伎や亡き吾妻徳穂先生から教わりました。厳しい世界でしたが、すばらしい演技のお手本を見て、先輩たちにときには叱られながら積み上げてきたことが今、役に立っています。踊りを学ぶことで動きの基礎もできるし、着物も着こなせる。それにはお金も時間もかかりますから若い俳優が学ぼうと思うと大変ですけれど、歴史を絶やしてはいけないと感じます。だから僕にわかることはできる限り若い世代に伝えていきたいと思っています。今回は柄本佑さんにキセルの持ち方をアドバイスしました。

――あらゆることを熟知している中村さんですが、新たに習得したことはありますか?

中村:筆づくりです。京都にふたりしかいない宮内庁御用達の筆職人の方たちに教えて頂きました。今回、監督よりも彼らに注意されることばかりでした(笑)。筆づくりーーとりわけ序盤の、筆の毛の素材を手で集めて長さをそろえる動きが難しくて、自宅で練習を重ねました。おかげで自宅が毛だらけになって、妻が外出して、いない間に練習して懸命に掃除してました(笑)。この仕事を生業としている役ですから当たり前に見えないといけない。演じる上で何が最もこわいかというと、そういうリアリティーですね。

――そのために徹底的に準備をされるんですね。

中村:藤沢周平さんの原作小説を読んだところ、後ろ姿の描写が着物ごしに肩の骨が見えているというもので、僕にはそれを再現するのは難しいと思って、監督に確認したら、今のままでいいと言われたんです。とはいえ、少しでも近づきたいと、16時間、食事をしないオートファジーを試しました。それで友人が激ヤセしたと聞いたんです。実際やってみたら痩せたんですよ。コロナ禍でもあったし、夏の暑い時期に撮影があたり、体力消耗が激しい中、撮影に支障をきたしてはいけないという不安もありましたが、やってみたらできるもんだと自信がつきました(笑)。

――いろいろなことにチャレンジしたり共演者の方の芝居に注目したり活力を感じます。

中村:「“おじいちゃん”になるものか!」と思っています。そうかと思えば、年齢相応の役もやりたいですし、いろんな役をやりたいです。今度、人間じゃない役に挑戦することになりまして、それがとても楽しみです。俳優は身体が丈夫でセリフを覚える記憶力さえあれば何歳になってもやれますから可能な限り続けていきたいですね。

――『殺すな』の井上監督も90代でも現役ですものね。

中村:そうです、監督と比べたら僕などまだまだです。監督は感性が若々しくて、ヨーロッパの洒落たアニメーションを見せてくださったりするんです。そういうところを見習っていきたいです。



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