Netflix『カウボーイビバップ』は成功と言えるか? アニメ版や近年の実写化作品から探る

実写版『カウボーイビバップ』は成功したか?

 『機動戦士ガンダム』シリーズや、『シティハンター』、近年は『コードギアス 反逆のルルーシュ』などで知られるアニメーションスタジオ、サンライズが、90年代の終わりに放った意欲的なTVアニメシリーズ『カウボーイビバップ』。サンライズが得意とするSF的な世界観やメカを登場させながら、気のいいバウンティ・ハンターたちが賞金首を求めて宇宙を巡る物語だ。そんなアニメを原作に、アメリカのスタジオによって実写ドラマ化され、2021年にNetflixから配信されたのが、アニメと同じタイトルの『カウボーイビバップ』である。

KIRSTY GRIFFIN/NETFLIX (c)2021

 さて、人気の漫画、アニメシリーズが実写作品になるときには、毎度のように物議を醸すものだ。中には蛇蝎のように実写化自体を忌み嫌うアニメファンも少なくなく、ネット上で否定的な意見が乱れ飛ぶことで、失敗したという空気が醸成されてしまうケースもある。そんなアニメ実写化に厳しい時代に、実写版『カウボーイビバップ』は、どう受け取られたのだろうか。

 もともと、日本の漫画やアニメを実写化した作品が、一部で拒否反応が起こるほど嫌われるようになったのは、大きく分けて二つの原因があるのではないか。一つは、『デビルマン』(2004年)や『DRAGONBALL EVOLUTION』(2009年)に代表される、誰が見ても分かりやすい失敗作が何度も槍玉にあげられることで、実写化そのものへの印象が悪くなっている向きがあるということ。もう一つは、日本のアニメ作品の素晴らしさを強調するために、実写化作品に対して必要以上に批判的な態度を示し、基の作品を神格化したがる場合があるということだ。

 これが悩ましいのは、実写化する側にも、批判されるような隙が多々あったのも確かだという点である。継続的に映像作品を作り続けている映画、ドラマ産業は、慢性的にネタ不足である。ヒット作をモノにしたいスタジオや会社は、映像化権を手に入れるだけで、すでにその分野で成功している物語や設定を手に入れられるので、比較的楽に素早く企画が立てやすいのだ。だが、準備不足や見通しの甘さのために品質がともなっていない場合もある。とくに『DRAGONBALL EVOLUTION』は、原作『DRAGONBALL』への作り手の愛情や理解が薄く、際立ったオリジナリティが発揮できてないという理由で、批判されるべくして批判されることになった代表的な一作だといえる。

 ただ、この問題はアニメなどの実写化作品に限った話でなく、オリジナル作品にもいえる共通した問題であるということも確かなのだ。この種の作品が叩かれがちなのは、すでに評価を得ている漫画やアニメなどの基の作品と比べられてしまうことで、粗が見えやすくなってしまっているということでもある。大友克洋原作『AKIRA』に代表されるように、何度もハリウッドで大作として実写化企画が持ち上がるものの実現しないケースがあるが、これはむしろ、そのような失敗を避けようとする、慎重で理性的な態度といえるかもしれない。

 しかし、ここ20年くらいの間で、日本の漫画やゲーム、アニメーション作品に影響を受けた、海外で活躍するクリエイターたちが作り上げた質の高い実写化作品は少なくない。『オールド・ボーイ』(2003年)、『頭文字D THE MOVIE』(2005年)、『スピード・レーサー』(2008年)、『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)などは、その最たる例だといえるし、『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017年)、Netflix版『Death Note/デスノート』(2017年)、『名探偵ピカチュウ』(2019年)など、アメリカのクリエイターによって異なる魅力が加えられているものもある。もちろん人によって感覚は異なるだろうが、これらの作品すら頭ごなしに「原作と違う」「原作の冒涜」と言われて否定されるのでは、様々な工夫を凝らして先進的な映像表現を達成した作り手たちは浮かばれないだろう。

GEOFFREY SHORT/NETFLIX (c)2021

 そんな状況の中で、実写版『カウボーイビバップ』は、どの位置にあたるのだろうか。おなじみの宇宙船「ビバップ号」のクルーとして、主人公“スパイク”をジョン・チョー、 巨漢の相棒“ジェット”をムスタファ・シャキール、ダニエラ・ピネダが、毒舌で金に目がないフェイ役にキャスティングされた本シリーズは、アジア、アフリカ、中南米にルーツを持つ俳優が、主人公とその仲間の役として配されることとなった。

 予想通りキャスティングが発表されたときから、本作には反発の声がぶつけられることとなった。とくに、もうすぐ50代になるジョン・チョーがスパイクを演じるのは、無理があるのではという意見が少なくなかったように思える。しかし実際にシリーズが配信されると、ジョン・チョーの“スパイク”は、おおむね評判が良い。きびきびとした華麗なアクションができることや、彼の年相応の佇まいは、自然とハードボイルドな雰囲気を湛えているのである。むしろスパイクの見た目から連想される、30代くらいの俳優が原作同様のクサいセリフを言ったとしたら、あまりに不自然に見えるかもしれない。

 これはもともと原作が持っていた矛盾点であり、アニメーション作品としてのケレンと山寺宏一ら声優の的確なバランスによって成り立っていた部分でもある。その意味でジョン・チョーのキャスティングは、本シリーズにとってかなり適切だったのではないか。

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