『カムカムエヴリバディ』“想い”も“言葉”もすべてがつながっていく見事な構成
ついに稔(松村北斗)が出征することになってしまった。『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第14話は、そんな事実に向き合う安子(上白石萌音)と勇(村上虹郎)の行動に心動かされる回だった。
稔の出征が決まった時から、毎日お参りをしていた安子の前に現れる勇。以前、彼らがここで出会った時は安子が「勇ちゃんが甲子園優勝しますように」と笑顔で祈っていた。それが今や、甲子園もなくなればそれどころの話ではなくなってしまっている。「兄さんだって、お前のことを想っている。このままでええんか」と安子に問い詰める勇に、「もう私には関わりのない人です」と力なさげに返す安子。前回で勇が会いにいった時の稔と同じように、彼女の心も折れてしまったのか。いや、そんなことはなかった。
本作は、週タイトルが数年にまたぐ年号になっており、具体的にそれぞれのエピソードが何年を舞台にしているのかはわからない。これは当時、生きた人々が抱えていた「明日に何が起きるのかわからない」という心境に、視聴者が寄り添える仕組みになっている。そのため、色々なことが足早に過ぎていく。甲子園の優勝を願っていたあの頃が遠い昔のように思えるように、安子の祖父・杵太郎(大和田伸也)が腰をやって笑いながら隠居した頃がすでに懐かしい。気がつけば肺を患った彼は、最期の言葉を、枕元で懸命に名を呼ぶ安子にかけていた。
「安子、しあわせになれ」
何度も何度も、泣きながら、頭を撫でながら、彼は「しあわせになれ」と告げた。安子も泣いた。戦争が近づくにつれ、日常を生きることさえもままならない。物は配給制に、娯楽も失われ、好きな人とも結婚できない。“しあわせになること”が、誰にとっても難しいその世で、それでも誰よりもしあわせになってほしいという、杵太郎の想いは大和田伸也の名演も相まって力強いものだった。