松下洸平、『燃えよ剣』『最愛』で異なる顔 演劇界で築いたキャリア活きる“複雑さ”の表現
この男を知るのが遅すぎたーーそう思わずにはいられない俳優がいる。『燃えよ剣』が長い延期を経て公開中であり、ドラマ『最愛』(TBS系)が放送中の松下洸平である。近年、幅広い層に対して一気に頭角を現し、参加する作品ごとにそれを更新し続ける彼。いまがその真価をもっとも堪能できる機会となっているのではないだろうか。
松下といえば、朝ドラ『スカーレット』(2019年〜2020年/NHK総合)でその名が全国区へと広がった。もちろん、それよりも前から彼を支持し、熱い声援を送り続けてきた方も多いだろう。事実、『スカーレット』への出演時点で演劇フィールドにおけるキャリアは10年に達しており、『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』(2019年/フジテレビ系)をはじめ、ゲスト出演も含めると、それ相応の本数のドラマ作品への参加を重ねてきていた。着実にキャリアを築いていたそんな彼が、“見つかった”状態になったのが朝ドラなのだ。
しかし面白いのが、公開中の『燃えよ剣』の方が『スカーレット』よりも撮影が先だったということである。司馬遼太郎の同名小説を映画化した『燃えよ剣』は、幕末の動乱期に獅子奮迅の働きを見せた新選組の姿を描いたもので、同作で松下が演じているのは斎藤一という人物。新選組の三番隊組長であり、この集団きっての剣豪だ。いまだ映画作品への出演経験が少ない松下とはいえ、現在の彼ならば妥当なキャスティングに思える。身体能力も優れた俳優だ。芝居はもちろんのこと、殺陣に関しても製作陣の期待に応えたはず。しかしながらすでに述べているように、この撮影は彼の名がいまほど知られる前のことだ。しかも時代劇映画への出演はこれが初めて。メガホンを取った原田眞人監督が抜擢したとのことだが、このキャスティングには彼の演じ手としてのポテンシャルが認められていた事実が表れており、たびたび「松下洸平」の名が世間を騒がせるような現在の地位に彼がたどり着くことが、「必然だった」と分かるのだ。
土方歳三の生涯を描いた原作小説は“巨編”と呼べるもので、斎藤一は終盤まで土方の側にいる存在ではあるものの、その扱いは決して派手なものではない。しかし映画を観てみればどうだろう。演じる松下は取り立ててセリフを多く口にするわけではないが、殺陣のシーンはもちろん、作品はしばしば彼にフォーカスしているように思う。これは、何気ないシーンでの松下のセリフの発し方や所作が観客の興味を引いていることの証左でもあるのだろうが、ここからもやはり、製作陣の彼への期待度の高さがうかがえるのだ。