『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』真髄への回帰 丁寧に構築された恐怖と愛の物語に満足

シリーズの真髄への回帰と丁寧な構築

緊迫感とテンションを高めた“タイムリミット”の仕掛け

 さて、そんな本作は『死霊館』シリーズの中で最も挑戦的であり、新たな方向性を見出した作品とも言える。今回夫妻はようやく“館”を飛び出したのだ。デヴィッドを呪ったトーテムを置いた悪魔崇拝者を探しだすために、映画の中で彼らはたくさん移動をする。これまでは基本的に呪われた家を舞台にしていたことから、恐怖表現も家の間取りを考えながらどう撮るのかといった、所謂“お化け屋敷”的な作り方をしてきた『死霊館』。その舞台装置が外されたことで、私たちが注意しなければいけないのはもう怪しげな部屋の片隅だけじゃない。文字通りどこから何が襲ってくるのかわからない状態で、本作に挑むことになる。

 そして最も重要なのが、そこに“タイムリミット”が設けられていることだ。早くトーテムを見つけなければ、再びアーニーに取り憑いた悪魔が彼の魂を奪ってしまう。その緊張感がジャンプスケアに頼らない、「命の保証の欠如」や「愛する者を失うかもしれない」という本質的な恐怖心を観客に掻き立てる。『死霊館のシスター』など、シリーズがユニバース化し作品数が増えてきた中でやはりどうしても、物語ではなく視覚や音で驚かすものも近年は作られてしまった。しかし、本来1作目の『死霊館』が高く評価された理由にある恐怖演出の丁寧さに今作は回帰できたように思える。なぜなら、『悪魔のせいなら、無罪。』は単なるホラーにとどまらず、事件を追うといったミステリー要素もあってプロット自体が非常にうまく構成されているからだ。それに、さきほど「怖さはマイルド」という表現をしたがもちろん、怖いところはしっかり怖い。霊安室のシークエンスは特に、生理的不快感と恐怖が入り混じって一刻も早くその場から逃げ出したくなる気持ちになる。ウォーターベッドのシーンもそうだが、『死霊館』シリーズの怖さの特徴は「絶対あそこが動く」とか「あっちからやってくる」というフラグがわかっているのに、いざきた時のインパクトが凄すぎてちゃんと慄いてしまうことだ。

 クライマックスはなんと魔女とロレインのガチンコバトルという展開になっているが、冷静に考えてみるとそこまで突拍子もないわけではない。なぜなら、映画の舞台である80年代は実際に悪魔崇拝者による事件が多発していたり、警察が霊媒師などの超能力者に捜査協力を頼んだりとしていた時期でもあるからだ。なにより、『アナベル』シリーズを振り返ってみても悪魔崇拝者の存在はずっとそこにあった。ある意味、避けて通れない戦いだったのかもしれない。印象的だったのは、神父の娘であり悪魔崇拝者の女がロレインに馬乗りになり、彼女をナイフで刺そうとするシーン。単純に殺すのではなく、ロレインの神秘的な能力を司る器官の目を狙っていて、そういった小さなディテールに意味のある演出は非常に好感度が持てた。

テーマは家族愛からカップル愛に

 これまでの2作の『死霊館』シリーズは全て、生みの親ジェームズ・ワンが監督したもの。そして今回、そのたすきが同ユニバースの作品『ラ・ヨローナ〜泣く女〜』で本格的な商業映画監督デビューを果たしたマイケル・チャベスに託された。『ラ・ヨローナ』もかなり丁寧に作り込まれ、家族愛という“死霊館イズム”をしっかりと持っていた正統派ホラー映画ではあったものの、正直少しだけ物足りなさも感じてしまう部分もあった。そのため、多くのファンは彼が監督をすると聞いて、期待していいのかどうか迷ったのではないだろうか。しかし、結果は「チャベス、やるじゃん!」といった具合の素晴らしい出来だった。冒頭の『エクソシスト』をオマージュしたショットや、スティーヴン・キングのテレビ版『シャイニング』を彷彿とさせる、悪魔に憑依されたエドの襲撃。そして全体的に『セブン』を思わせるような鬼気迫る捜査要素など、様々な名作のエッセンスを取り入れながらも、しっかり『死霊館』の映画を作ったチャベス。これまでの2作は全て、家族愛がテーマだったが本作ではより、ウォーレン夫妻とアーニー&デビーのカップル愛に焦点が当てられている。

 なにより重要なのは、自分の婚約者が目の前で惨殺事件を起こしても最初から最後まで彼を疑うことなく愛し続けたデビーの信じる心がアーニーを救ったことだ。同じように、出会いを回想しながらたどり着いた二人の愛の原点によって、ロレインとエドは呪いに打ち勝つことができた。クライマックス、病院と洞窟のシーンを交互に映し出すことで両者が愛を武器にして戦っていること、家族にも手をかけ愛を持ちえなかった悪魔崇拝者の女の敗北が対比的に強調された。全てが終わった後、薬を忘れてしまったエドに「だと思いましたよ」とロレインがロケットに入れていた薬を渡すシーンがニクい。派手なファイトシーン以上に、あの小さなやりとりにしっかりとした夫婦愛が描かれていて、あまりの美しさに目頭が熱くなってしまった。その愛に説得力を持たせるヴェラ・ファーミガとパトリック・ウィルソンの演技も圧巻である。

 しっかり怖くて、しっかり感動できる。それが『死霊館』シリーズの良いところだ。心が温まったかと思ったら、エンドクレジットで実録の悪魔の声を聞いてしまうという苦味も醍醐味。シリーズは今後も続く予定で、先に述べた80年代の超能力者による事件捜査スタイルの方向性で作られる可能性もあるそう。『エンフィールド事件』のスピンオフとなる「へそ曲がり男」の映画化もされるし、今後のホラー映画界でも『死霊館』がアツい。

■公開情報
『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』
全国公開中
監督:マイケル・チャベス
製作:ジェームズ・ワン、ピーター・サフラン
脚本:デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック
出演:パトリック・ウィルソン、ヴェラ・ファーミガ、ルアイリ・オコナー、サラ・キャサリン・フック、ジュリアン・ヒリアード
製作:ニューライン・シネマ
配給:ワーナー・ブラザース映画
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