石川由依、“無口系ヒロイン”を好演 『進撃の巨人』ミカサ役でみせた表現の妙

 『別冊少年マガジン』2009年10月号から連載が始まり、社会現象的大ヒット作として大きな衝撃をあたえてきた諫山創の『進撃の巨人』。2013年からスタートしたアニメ作品も、荒木哲郎監督とWIT STUDIOがスタッフィングした作画班による綿密かつ躍動感あるアニメーションを計3シーズン59話に渡って届け、アニメーション制作会社がMAPPAへと変更になった現在の「The Final Season」でも、絵のタッチに多少の変化がみられるとはいえ、躍動感や綿密さが薄れた印象は全くない。

 「複数の作品制作がスケジューリングされ、多忙と人員不足でクオリティが落ちてしまう」「漫画原作をアニメにすると幾分かのカットやニュアンスの違いが出てしまい、満足度が下がってしまう」というような状況は少なくないが、『進撃の巨人』はマンガ版・アニメ版ともに名作と呼ばれるに値する稀有な作品になりそうだ。これまで筆者は、梶裕貴&エレン・イェーガー(参照:梶裕貴、『進撃の巨人』エレン役で新境地開拓 ヒーローの二面性を表現)、井上麻里奈&アルミン・アルレルト(参照:『進撃の巨人』キーパーソンのアルミン 声優・井上麻里奈が作品にもたらした影響)について書いてきた。次なる3組目は石川由依とミカサ・アッカーマンについてスポットを当てたいと思う。

 ミカサはエレンと幼少期からの仲であり、キレイな黒髪に黒い瞳で端麗な容姿を持つ美少女。その実、口数は非常に少なく、人にものを伝えるのが極端に苦手で、口を開くとあまりにも直球な言葉遣いで話すため相手を勘違いさせてしまうことも少なくない。

 第104期「訓練兵団」を首席で卒業し、対人格闘成績も1位、「失えば人類にとっての大損害」と上官から評価されるほどの武力を持っており、その実力でもって調査兵団全体からは信頼を勝ち得てきた。

 寡黙で端麗な容姿ということで「クール」な印象を劇中でも持たれがちだが、エレンに危険が迫れば手段を選ぶことなく排除しようと動くのが彼女。原作9巻で「趣味:エレン」と表記されたのがジョーク気味なネタとはいえ、無言のまま威圧感・怒気を発して対象を殲滅しようと動く姿は、エレンへ向けられた愛情以外の何物でもないだろう。

 口下手な性格が影響して、物語序盤ではエレンとアルミン以外とはほとんど交流を持とうとしなかったが、時間が経過するにつれて訓練兵団104期生のメンバーや調査兵団の面々ともコミュニケーションが取れるようになっていく。

 リーダーとして指示を多く飛ばすというタイプではないが、「ミカサがいれば巨人を何とかしてくれる」という周りからの絶対的な信頼を勝ち得ていることもあり、「敵を殲滅しなければいけない」「目の前の困難を超えなければいけない」という一直線なメッセージを周りに伝えれば、鶴の一声のように否応なく従わせる存在感を持つほどになる。

 作者である諌山創が描いた彼女は、筋肉質、均整のとれたスポーツマンのようであり、美しいプロポーションもしっかり持ち合わせているキャラだ。ちなみにこの筋肉質な身体は、作品中のとあるネタにも通じてくる部分であり、作品設定と無関係というわけではない。

 そんな彼女を演じるのは、声優の石川由依である。6歳のころに劇団ひまわりへ入団し、地元の兵庫から東京へと上京。2002年からは名作ミュージカルシリーズにて主演を務めるほどの実力ある演技役者になっていった。

 その後は声優ではなく舞台女優としてのキャリアを着実に重ねていた彼女だったが、2013年に再び声優として担当したのがミカサ・アッカーマン役であり、大ヒットを生み出したTVシリーズ第1期作品と共に彼女の評価が高まり、この年の『声優アワード』助演女優賞を受賞している。

 このタイミングで声優としての評価・仕事勘を掴んだようで、その後にはミカサ役だけではなく、『アイカツ!』新条ひなき、『エロマンガ先生』高砂智恵、『アズールレーン』のエンタープライズ、現在放送中の『トロピカル〜ジュ!プリキュア』一之瀬みのりなどを演じてきた。

 その中でもミカサ役と同等の評価とヒットを得たのが、アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のヴァイオレット・エヴァーガーデン役だろう。2018年にTVアニメ作品として放送され、外伝映画と新作映画の2本を届けてきた同作を通じて大きな評価をもらい、『第十五回 声優アワード』において主演女優賞を受賞した。この件については、以前筆者が書いたこの記事(声優 石川由依、キャラの成長と共に変化する表現 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などから考察)を参考にしていただければ幸いだ。 

 無口・無表情系のヒロインというと、この30年のなかでも印象的なヒロインが多く誕生した。『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ、『機動戦艦ナデシコ』のホシノ・ルリ、『涼宮ハルヒの憂鬱』の長門有希、『魔法少女まどか☆マギカ』の暁美ほむら、その他にもすぐに思い出せるキャラクターは多いだろう。

 ミカサとヴァイオレットもこの系譜にしっかりと残るキャラクターだと言えよう。『何を考えているかが察しがつかない』というミステリアスさを秘めつつ、徐々に心開き、感情を表現していくような変化を想像することもできる。

 だがその実、「無口なヒロインの感情表現」というのは役者泣かせなキャラクターなのかもしれない。不器用ながらも爆発的に感情をあらわにするキャラクターもいれば、少しずつ丁寧に示すキャラクターもいる。顔の表情だけでなく、身振りなども動きが少ないとなれば、より難度は高くなる。石川本人も、この点については監督を含めて考えることがあると語っている。

「そのキャラクターの感情表現が大きければ大きいほど、さまざまな表現を考えられると思うのですが、ミカサは芯が強くて感情をあまり表に出さないキャラクター。ただ、内に秘める思いは強いんです。今のところ、演じるうえで監督から大きな指示が入ることはあまりないのですが、どのように演じようかというのは常に悩んでいます」(「進撃の巨人」石川由依“どのように演じようかというのは常に悩んでいます” | WEBザテレビジョン

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