『おかえりモネ』ご都合主義にならない安達脚本のヒロイン像 百音と亮の対比も浮き彫りに

『おかえりモネ』百音と亮の対比が浮き彫りに

 彼女のデータ思考は、ラジオの内容にも反映されてしまっている。延々と続く、漁師や農業従事者への“注意喚起”。これは百音が気象予報士になりたての時、放送でずっと水害の危険性について話していた時と同じことを繰り返してしまっているのだ。その時も、恐怖だけを伝えるのではダメだということに気づけた百音。特に被災地の住民にとって、四六時中そういった内容ばかり聞くのはしんどいもので、逆に楽しくて和気あいあいとしたものが求められているのが放送直後から入ったクレームからもうかがえる。

 第99話のラストで子供と共に現れた高橋(山口紗弥加)や遠藤(山寺宏一)がやっていたような感じだ。あのブースで百音の座る場所がなくなってしまった様子は、正直かなりこたえたけど……。しかも、実は以前「市民の時間」というタイムテーブルがあったのだという事実が、なんとなくまた百音が彼らからそれも奪ってしまったようになっていてオーバーキルが過ぎる。

 安達奈緒子の紡ぐ脚本は、時に主人公に対して容赦がない。一方で、主人公が間違った行動をとった時、キャラクター自身にその過ちを気づかせるために丁寧な過程をふむ。それが逆に優しい。多くのドラマでは1話の中で、気づきと改善までご都合主義的に回収されてしまうものだが、それに対して『おかえりモネ』は「実際そんな人間はすぐに変わらないし、時間だってかかる」という現実味を帯びている。

 百音の癒しは、もっか菅波(坂口健太郎)との電話だ。菅波も百音との恋のおかげか、あれだけ人付き合い苦手そうだったのに、話しやすい人にまで柔んできた。この2人はいつもシンクロ率が高いが、そういえば百音の延々と続く注意喚起放送は、いつぞやに菅波が彼女に送った長文メールを彷彿とさせる。あの時百音は、菅波にこう言った。

「長いし正論ばかりだし、でも私にはできないことばかりで腹が立ちます」

 今、それが自分と気仙沼の住民たちの間で起きていることに気づけたら、飛躍的に彼女は成長できるはず。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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