コクトー×メルヴィルの傑作が4Kリマスター版で蘇る 『恐るべき子供たち』の真の価値とは

『恐るべき子供たち』の真の価値

 実際、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手といえるフランソワ・トリュフォー監督は、映画『恐るべき子供たち』を何度も繰り返し観て、セリフや細かい演出を暗記するまでになったという。そして、『大人は判ってくれない』(1959年)に、本作の撮影を務めたアンリ・ドカエを呼ぶことになるのだ。トリュフォーは、批評家時代に鋭い舌鋒をもって、古くさい考え方に縛られた過去の映画を次々に批判したという意味で、「フランス映画の墓掘り人」の異名をとった人物である。そんなトリュフォーにここまで愛されたという事実からも、『恐るべき子供たち』の先進性は担保されているのだ。

 映画監督でもあるコクトーは、本作の製作にも深くかかわり、さまざまな注文をつけたというが、その献身ぶりも熱心なものだった。脚色やナレーション、さらには劇中で鳴り響く“心拍音”もコクトー自身のものなのだ。コクトーに認められ原作を任されたメルヴィル監督の手腕は素晴らしく、コクトーによる硬質的な雰囲気を、さほど崩さずにモダンな青春映画として完成させている。この絶妙なバランスが、本作をコクトー作品として成立させながら、より広い共感を集めるものにしたといえよう。さらに、女性主要キャストの衣装をクリスチャン・ディオールが担当しているところにも注目したい。

 さて、本作と現代に通じるものとは何なのか。それは近年、感染症の蔓延やIT技術の発達によって、以前よりも人がプライベートな空間にこもり、そこで充足することが多くなったという社会状況によって、より鮮明になっているといえよう。つまり、負傷という事情と、創造力豊かな姉の存在によって部屋に居続けるというポールの状況は、はからずも一部の現代人の象徴となっているのである。

 インターネットは、現代人に多くの情報を与える機会を用意することとなった。しかし、それを有効に活用して成長を遂げる人ばかりではないだろう。SNSで自分と類似した仲間を見つけ、そこで充足する人々が、他では通じない身内の共通言語で会話を交わしているように、自分の理解の範疇にとどまり周辺の情報ばかりを受け取り充足することによって、逆に成長の機会を逃してしまうケースも多いはずである。

 小説『恐るべき子供たち』に、当時の若者たちが未来への突破口を見出した一方で、コクトーはそのことを、本作に登場する“夢遊病”になぞらえて、「目を開けたまま夢を見たい者たち」による評価だとして、批判的な目を向けていた。それはコクトー自身が、姉弟の生み出す閉塞的な世界に問題意識を持っていたことの表れでもある。

 トリュフォーが、『大人は判ってくれない』において、少年が大人の抑圧を脱して逃走した先に、海という超えられぬ壁に打ちひしがれる場面を描いたのは、成長を拒否した子どもには限界もあるという、『恐るべき子供たち』の悲劇的なテーマを正確に読み取っていたからではないか。

 だがトリュフォーは、この子ども部屋という袋小路に、一つの希望を用意してもいる。それが、ポールの胸に雪玉を打ち込んだダルジュロスという、真に“外部的”でパワフルな存在である。物語ではその後、ダルジュロスそっくりの登場人物が現れ、姉弟の世界の最大の脅威となっていく。“ダルジュロス”は、ポールを閉塞した世界へ送ると同時に、そこから外へ引きずり出そうとする存在でもあるのだ。外部からの“衝撃”や“感動”。それがわれわれを駆動させ、閉塞的な子ども部屋の世界から解放し、可能性を広げてくれるものなのではないだろうか。

 ポールが胸にダルジュロスの雪玉を受けたように、そして、再びダルジュロスと出会うことによって、子ども部屋を破ろうとしたように、人生のなかで“決定的”な出来事が起こることを、われわれもまた無意識的に待っている。その瞬間を味わい、自身が変化していくことこそが、人生の醍醐味であり、意義といえるのではないか。トリュフォーにとっての“雪玉”が本作だったように、この映画はまた、現代に生きる誰かの胸を直撃する“雪玉”ともなるはずである。

■公開情報
『恐るべき子供たち 4Kレストア版』
10月2日(土)より、シアター・イメージフォーラムほかにて全国公開
監督・脚本:ジャン=ピエール・メルヴィル
脚本:ジャン・コクトー、ジャン=ピエール・メルヴィル
出演:ニコール・ステファーヌ、エドゥアール・デルミット
撮影:アンリ・ドカエ
衣装デザイン:クリスチャン・ディオール
配給:リアリーライクフィルムズ
共同提供:Cinemaangel
1950年/105分/フランス/モノクロ/スタンダード4Kデジタルリマスター版/DCP・Blu-ray/日本語字幕:横井和子/監修:中条省平
(c)1950 Carole Weinkeller (all rights reserved) Restauration in 4K in 2020 / ReallyLikeFilms

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