『イカゲーム』は単なるデスゲーム作品ではない 韓国社会を反映させた監督の手腕

 監督・脚本を手掛けたのはファン・ドンヒョク。これまでに、コン・ユが原作を読み、自ら映画化したいと働きかけ、この映画がきっかけで13歳未満の児童への性暴力犯罪の処罰に関する改正案“トガニ法”が生まれたという『トガニ 幼き瞳の告発』や、『新聞記者』で日本アカデミーの最優秀主演女優賞に輝いたシム・ウンギョン主演の大ヒット作『怪しい彼女』、イ・ビョンホンとキム・ユンソクが主演の歴史大作『天命の城』を監督してきた。

 ファン・ドンヒョクは特異な監督である。実話を元にしたクライムサスペンス、70歳のお婆さんがある日突然二十歳になった世界を描くコメディ、そして実際に起こった歴史上の史実を描いた小説をもとにした人間ドラマなど、一作一作のジャンルもカラーもまったく違うというのに、どこかファン・ドンヒョクらしい軸が存在しているからである。

 ではその軸とは何かというと、どんなジャンルでも、必ず、社会の歪への批判と、現代に生きる人へのまっとうなメッセージがあるということだ。

 だからこそ、どんなジャンルでも、安心して身をゆだねることができるし、『イカゲーム』が成功したことで、同じような企画を監督するというよりは、またあっと驚くジャンルでファン・ドンヒョクらしさを見せてくれるだろう。

 今回の『イカゲーム』でも、その「らしさ」が存分に発揮されていた。それはエンディングに近づくほど見えてくる。

 デスゲームでサバイバルを勝ち抜いたものは、大金を手に入れることになるのだが、終わりに近づくにつれ、私は「大金を手に入れて、果たしてそれを手にしたものは幸せになれすのだろうか」という疑問が沸いてきた。

 お金のなさで不幸せになるものは多いが、それを手にした一握りのものだけが幸せになるというのであれば、社会はなんら変わらない。そんな疑問を、ファン・ドンヒョク自身が持ってこのドラマを作っていたのが、物語の結末からはうかがえた。

■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『イカゲーム』
Netfliにて、全話独占配信中
原作・制作:ファン・ドンヒョク
出演:イ・ジョンジェ、パク・ヘス、ウィ・ハジュン、オ・ヨンス、チョン・ホヨン、ホ・ソンテ、キム・ジュリョン、

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