『漂着者』最大の謎を残して終幕 ヘミングウェイが選んだ未来とは
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もし現代に預言者がいたら? 人類に訪れる破局と絶望的なシナリオを知ったなら、どうにかしてそのような事態を回避しようと手を尽くすのではないだろうか。『漂着者』(テレビ朝日系)最終話では、危機に瀕した日本をヘミングウェイ(斎藤工)が救う。
連続女児殺害事件には、嘴屋の女将である関川ふみ(根岸季衣)が関わっていた。柴田(生瀬勝久)を刺して捕まったふみは、住職の深見(リリー・フランキー)との関係をほのめかし、県警は雲行寺に踏み込む。搬送された柴田(生瀬勝久)は生死の境をさまよう中で、12年前に失踪した娘のひかり(志水心音)に出会う。ひかりから「みんなのために仕事をして」と見送られて、柴田は息を吹き返した。ひかりは亡くなっていたが、ヘミングウェイが話したとおり、柴田はひかりと再会したことになる。
某国の工作員が大規模なテロを起こす未来を変えるために、ヘミングウェイは脳内のイメージをスケッチブックに描いては捨てる。宮部総理(キンタカオ)の死因が、ヘミングウェイの手によって書き換えられたことを知る総理大臣臨時代理の藤沼(峯村リエ)は、「あなたが未来を選ぶしかないのよ」と言ってヘミングウェイに国の命運を託す。しかし、見えるのは多くの人が亡くなる悲惨なビジョンばかり。工作員は小型核兵器を持ち込んでおり、いざとなれば自ら命を絶つこともでき、うかつに手を出せば外交問題になってしまう。公安に打つ手がない中で、ヘミングウェイがどんな未来を選択するか注目が集まった。
3カ月にわたって放送された『漂着者』で、ついにヘミングウェイが記憶を取り戻すことはなかった。主人公の正体という最大の謎を残して終幕したことに、消化不良感があることは否めない。しかし、かねてから指摘されてきたように、劇中の動画配信(「ヘミちゃんねる」)や社会への風刺など、作品を俯瞰するメタ視点が本作には一貫している。一方、人の主観は外部から知ることができない。ある意味、記憶喪失は自身の中にブラックボックスを抱えた状態といえる。ヘミングウェイが自らの正体を自覚しないまま預言者として覚醒したことは、視聴者を煙に巻くというよりも、外部から俯瞰する視点のあらわれであり、超能力や陰謀論といった客観的に証明できない対象への本作の距離の取り方が、このような形をとったものと思われる。