『おかえりモネ』呪縛から解き放たれた百音と菅波 希望とともに“橋を渡る”2人に寄せて

「橋を、渡ってきた」

 2011年3月11日、故郷の島が被害にあうさまを、本土側からただ見つめることしかできなかったモネ(百音/清原果耶)。8年後、彼女は竜巻の甚大な被害を受けた島へ、新しくかけられた橋を渡って帰ってきた。自分の力で。

 NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』。第10週「気象予報は誰のため?」から始まった東京編も、第19週「島へ」で一旦区切りに。ここでは10週に渡り放送された東京編を振り返っていきたい。

 まず書いておきたいのが、その構成を見ても『おかえりモネ』は稀有なドラマということだ。多くの朝ドラでフォーカスが当たるのはヒロイン(もしくは主人公)が困難を乗り越え、成長を遂げるさまであり、物語の中心人物として周囲に多大な影響を与えていく様子である。が、本作はそのフォーマットとは一線を画す。

 東京の気象予報会社、ウェザーエキスパーツで気象予報士として働き始めたモネ。面接の下見に行ったその日に報道の現場を手伝うことになり、あれよあれよという間に朝のニュースのお天気中継で、番組キャラクターの人形役を担当することに。

 通常の朝ドラであれば、ここから先に展開するのは、苛酷な報道現場での疲弊やトラブル、新たな夢と挫折、中継キャスター・神野マリアンナ莉子(今田美桜)とのライバル関係、Jテレ社会部気象班のデスク・高村(高岡早紀)からのプレシャー……なんならパワハラ等であろう。だが、安達奈緒子の脚本はそんな“朝ドラ定型”を見事にスルーする。

 その要因のひとつがモネのブレない意志だ。彼女の芯にあるのは「いつか地元のために役立つ仕事をしたい」という一念で、たとえば気象キャスターとして成功したいとか、気象ビジネスで一儲けしたいといった野望は一切ない。代わりに前向きな攻めの姿勢を体現したのが、モネの同世代の同僚、神野である。

 ウェザーエキスパーツの現場において、通常はヒロインが体験する実力不足からの葛藤や傷心を経ての成長といったパートを“東京編・2人目のヒロイン”として担った神野の役割は大きい。また“女の敵は女”との言葉を笑い飛ばすかのように、先に道を歩んだ者として、モネと神野をつねに見守り、時に課題を与えた高村の存在がストーリーに華やかな熱と爽快感とを与えていた。

 『おかえりモネ』東京編におけるモネの歩み。それはまるで「橋を渡る」ようであった。朝ドラで多くのヒロインが清水の舞台から飛び降りたり、険しく高い山を登ったのに対し、モネは一歩一歩自分が帰るべき場所に向かって歩を進める。派手さはないし、一気に距離は詰められないけれど、その歩みは確実だ。

 そして東京編にはもう1人「橋を渡る」ように静かに踏み出した人物がいる。そう“俺たちの菅波”こと、医師の菅波光太朗(坂口健太郎)である。

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