故・高畑勲監督も作りたかった『平家物語』 徳子の生き様は800年後の今どう描かれる?

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす

 監督・山田尚子、脚本・吉田玲子、キャラクター原案・高野文子、アニメーション制作・サイエンスSARUという布陣で、『平家物語』(古川日出男訳)が連続テレビアニメになる! という情報が解禁されたのは9月3日のこと。

 古川日出男の小説『平家物語 犬王』が監督・湯浅政明、脚本・野木亜紀子脚本、キャラクター原案・松本大洋、アニメーション制作・サイエンスSARUという布陣でアニメ映画になることはすでに発表されていたが(2022年初夏公開予定)、『平家物語』がアニメ化されるなんて! と驚いた人が多かったと思う。筆者もその一人だ。

 地上波での放送は2022年1月スタートだが、動画配信サービスFODで早くも9月15日から先行配信が始まった。その完成度はまさに圧巻のものだった。

 『平家物語』は、鎌倉時代に成立したとされる軍記物語。平家の栄華と滅亡、没落する貴族と台頭する武士たち、死にゆく男たちと遺された女たちの人間模様が描かれている。琵琶法師の語りによって広められた、作者不詳のエンターテインメント巨編だ。これまでアニメ化されたことはなく、故・高畑勲監督がどうしても作りたかった作品でもある。

 アニメ『平家物語』は、美しいアゲハ蝶と白い沙羅双樹の花のカットから始まる。アゲハ蝶は、平清盛とその一派が愛用して広めた家紋・蝶紋のモチーフ。生き生きと舞い踊るアゲハ蝶は、平清盛を棟梁とする平家がまさに栄華を極めようとしている様を表している。

 平安末期の京の街を歩くオッドアイの少女、びわ(悠木碧)と、その父親である盲目の琵琶法師(杉村憲司)。街には「禿(かぶろ)」と呼ばれる平家の密偵たちが跋扈し、平家を悪く言った者たちを捕らえていた。禿たちの横暴ぶりにびわは思わず声をあげるが、娘を守ろうとした父親は容赦なく斬り殺される。毒々しいまでに鮮やかな赤い血を浴びたびわは、刹那、平家の滅亡を幻視する。

 ヒリヒリした空気が充満するアバンタイトルから、女琵琶法師が語る『平家物語』冒頭の一節に続き、羊文学「光るとき」が流れるオープニングタイトル。オープニングの映像には、アニメオリジナルキャラクターのびわとともに平清盛(玄田哲章)の嫡男、平重盛(櫻井孝宏)とその家族が登場する。

 「面白い」ことを好む豪放磊落な清盛に対して、いつも困り顔をしている生真面目な重盛は、びわと同じくオッドアイであり、亡き者たちを見ることができる性質があった。この世の春を謳歌する平家の人々と異なり、いつもどこか居心地が悪そうな重盛は「お前たちは、じき滅びる」と語るびわを自分の家で保護することに決める。

 保元・平治の乱で活躍した後、順調に出世を重ねていた平重盛は、『平家物語』では悪行を重ねる清盛とは対照的に、文武両道に秀で、温厚・実直で思慮深い理想的な人物として描かれている。重盛の屋敷の場面では牡丹の花が何度も描かれているが、歌舞伎には重盛を主人公とした「牡丹平家譚」という演目がある。

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