酒を悪とは描かない 『アナザーラウンド』『ビーチ・バム』がもたらす幸せな酩酊状態

 コロナ禍に入って大きく変わったことの1つが、月々の飲み代が減ったことだ。酒飲みは誰と連れ合うことなく1人でも飲み歩くので、いわゆる“交際費”の範疇を超えた出費になることがままある。多くの飲食店が営業を制限されている今、飲み歩くことができなくなってしまった。家で飲んでも僕は1~2杯でぐずぐずと寝入ってしまうので、総じてアルコールにかける出費が減っている。

 公開中のデンマーク映画『アナザーラウンド』は飲まずにはいられなくなる映画だった。マッツ・ミケルセン扮する歴史教師が飲み友達3人と“血中アルコール濃度を一定値に保ち続ければ気持ちがおおらかになり、仕事の能率も上がるのでは”という仮説を実証すべく、飲んで飲んで飲みまくる。酒飲みなら1度は考えるか、中には実践したことがある人もいるだろう。僕も若い頃、朝まで飲み明かし、その足でコールセンターのバイトに行って「なんだか今日は接客の調子がいいな」と呑気なことを思った経験がある。映画は酒飲みあるあるな描写がくすぐったく、僕は終始笑い通しだった。場内のあちこちからも同じように笑い声が聞こえてきたので、きっと彼らもイケるクチなのだろう。

映画『アナザーラウンド』本予告編

 マッツ演じるマーティンは教科書をただ読み聞かせるようなダメ教師だったが、この実験を始めてから話術に冴えが出て、生徒たちを魅了し始める。もともと研究職を目指していた知性の人であり、そういう人は往々にして適量のアルコール下では話も面白いもんである。長年、ディスコミュニケーションに陥っていた妻や息子たちとの関係も良好になり、路頭に迷っていたマーティンの人生が再び輝き始める。憂いを帯びたマッツの目線はいつもながら多くの心情を物語り、「オレも飲みたい……」と言わんばかりのジト目は迫力十分だ。実験はアルコール度数の低いワインから始まり、すぐにウォッカが定番になる辺りは北欧圏ならではか。しかし、血中アルコール濃度を常に一定値に保ち続けるような飲み方が悪影響を及ばさないワケがなく、やがて事態は予想していた通りの展開に……。

『ライトハウス』(c)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

 今年はなぜか酒飲みの作品が多い。7月に公開されたロバート・エガース監督のホラー映画『ライトハウス』では、ウィレム・デフォーとロバート・パティンソン扮する灯台守が孤独を紛らわそうと夜な夜な酒を酌み交わす。高圧的で威張りくさったトーマス(ウィレム・デフォー)に始めはウィンズロー(ロバート・パティンソン)も嫌悪感を示すが、アルコールの力を借りればやがて距離も縮まる。彼らが飲むのは何で作ったのかよくわからない怪しい特製どぶろく。こういう酒は大体ロクなことに繋がらず、やがて2人はアルコールと恐怖で常軌を逸していく。新旧2大怪優がフルバースト状態で演じる鬼畜大宴会は見ているこちらも悪酔い必至だ。

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