Netflix韓国オリジナル作品の最高傑作!? 『D.P. -脱走兵追跡官-』が世界に提起する問題

 Netflixで8月27日から配信開始となった『D.P. -脱走兵追跡官-』が話題を集めている。D.P.とは、Deserter Pursuit(軍隊離脱者追跡)を意味し、様々な理由で軍務を離れた兵士を逮捕する特殊部隊のこと。兵役義務によって入隊した二等兵のアン・ジュノ(チョン・ヘイン)はD.P.の任務を授かり、様々な理由により脱走した隊員を追う。2015年に発表されたウェブトゥーン『D.P 犬の日』の作者キム・ボトンが脚本に参加、『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』(2019年)、『コインロッカーの女』(2015年)のハン・ジュニ監督が全6話を演出している。

 ドラマの舞台は2014年。この設定に大きな意味があるのは、この年に軍内で暴行死亡事件と脱走兵による銃乱射事件が起き、韓国内で大きな社会問題になったからだ。原作、そしてドラマが伝えようとするメッセージと、軍内部で日常的に暴行やいじめが横行し、脱走兵が続出していることは無関係ではない。国民の義務としての徴兵制度と、逃げ場のない組織の闇を鋭い視点で描いたこのドラマシリーズは、「批評家の間でも非常に評価が高く、Netflixの韓国オリジナル作品の中でも最高傑作との声が挙がっています。ハン・ジュニ監督は兵役の暗部について、韓国では誰もやったことのない限界に挑戦しています」と、韓国の映画評論家でコラムニストのキム・ドフン氏は言う。「実際に多くの若い兵士が脱走し、自死を選ぶ悲劇が起きています。ドラマで描かれている事件はとてもリアルで、兵役経験者はこのドラマを観てPTSDを発症したとSNSで明かしていました。私も例外ではありません」。

 他方で報道されている通り、韓国映像作品の世界的ヒットに伴い、Netflixは2021年度におよそ5億ドル(約550億円)の投資を決めた。『D.P. -脱走兵追跡官-』はその中の1本で、含みのあるエンディングや製作者のインタビューを読むとシーズン制も視野に入れているようだ。キム・ドフン氏が、「このテーマを臆することなく受け入れたNetflixに拍手を送りたい。他の放送局だったら、この企画を受け入れることは困難だったと思います。なぜなら、このようなテーマにはまだ見て見ぬふりをする現状があるからです」と言う。“Netflixオリジナルシリーズ”と冠がついている作品群には『愛の不時着』や『梨泰院クラス』などケーブルチャンネルや民放局が製作するドラマを海外において独占配信する作品と、企画製作を行う作品がある。『D.P. -脱走兵追跡官-』は後者で、韓国内でもNetflixのみで配信されている。Netflix韓国のオリジナル製作ドラマには、犯罪に手を染める高校生を描いた『人間レッスン』(2020年)、チョン・セランのファンタジー小説を映像化した『保健教師アン・ウニョン』(2020年)、史劇とゾンビを掛け合わせた意欲作『キングダム』(2020~2021年、2シーズンと外伝が配信中)など、従来の放送では難しい題材に挑戦している。なかでも、『D.P. -脱走兵追跡官-』が韓国内外に与える影響は大きかった。

 ドラマの趣旨はセンセーショナルな内情告発ではなく、第6話のサブタイトルでもある「傍観者たち」が世間の大多数であると警鐘を鳴らすこと。このドラマが韓国だけでなく世界的にヒットしている事象(参考:https://flixpatrol.com/title/dp/)を受け、「大事なのは問題点を顕在化させること」だとキム・ドフン氏は言う。「このドラマは、韓国がK-POPのキラキラしたテーマパークといった印象だけではなく、多くの問題を抱えた複雑な国であると世界に示すものです。世界の視聴者にバランスのとれた視点を提供するためにも、韓国の様々な側面を世界に示すことは非常に重要です」と語る。

 アン・ジュノ二等兵を演じたチョン・ヘインは、『愛の不時着』(2019年)のソン・イェジンと共演した『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』(2018年)や、『おご姉』のスタッフが再集結した『ある春の夜に』(2019年)、映画『ユ・ヨルの音楽アルバム』(2019年)など、恋愛ドラマで人気を博した。だが、彼の出演作のなかでも『刑務所のルールブック』(2017年)の闇を抱えた職業軍人役を評価するファンも多い。チョン・ヘインが演じた役は、“悪魔のユ大尉”として知られ、後輩兵士を暴行の末に死に至らせた傷害致死罪で収監、軍事裁判にかけられる。なぜ暴行を働いたのか、彼は本当に悪魔なのかという点がドラマ後半の謎解きになっている。キム・ドフン氏も「チョン・ヘインはこれまで、女性ファンに向けた甘い役を演じる俳優として評価されてきましたが、これからはそれ以上のキャラクターもこなせることを証明してくれました。今作は彼にとって画期的な突破口になるようなものだと思います」と評価する。

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