西島秀俊は言葉にせずに魅せる 『ドライブ・マイ・カー』『おかえりモネ』での“裏”の表現

 台詞や表情の裏にある西島の演技は、寡黙なドライバー・渡利みさき(三浦透子)との距離感にも効果をもたらしている。2人の関係性が変化する様は、お互いに少しずつ過去を打ち明ける車中での会話や、家福が後部座席から助手席に座るようになる演出でも見えてくる。そして、物語冒頭でみさきが運転することに難色を示していた家福だったが、後部座席でリラックスしていた様子で彼女の運転技術を感じる姿があった。台詞として発される前から、みさきの運転には非の打ち所がないこと、彼女の存在が家福の心をざわつかせることはないことが理解できた。

『ドライブ・マイ・カー』(c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 現在放送中の『おかえりモネ』(NHK総合)でも、西島の表には見えない部分の演技が効力を発揮している。西島が演じる朝岡覚は、主人公の百音(清原果耶)を気象の世界に導いた憧れの存在だ。朝岡がスポーツ気象を始めた背景には、元・駅伝ランナーとしての個人的なリベンジを果たしたい気持ちがあった。東北で大雨による土砂災害が発生した際は、そこに住む人々の日常生活が脅かされることを心配し、答えの出ない問題に苦悩する場面も。百音たち若い世代から見れば、頼りがいのある大人である朝岡にも欠点や弱さがある。演じている西島自身、公式インタビューで「崇高な部分と人間らしい俗っぽい部分を自分の中に分け隔てなく持っているのが、朝岡というキャラクターの魅力なんですよね」と答えている。もちろん朝岡の根幹には「人を救いたい」という強い気持ちはあるが、その崇高さだけで気象と向き合っているわけではない。その部分を西島が汲み取った結果、朝岡はただの「優しい上司」にはならないのだ。朝岡の過去や苦悩が明かされた時、これまで見てきた彼の物腰に厚みが生まれ、物語に深みが出る。

『おかえりモネ』(写真提供=NHK)

 家福も朝岡も西島が演じているが、彼らの人物像に共通点は少ない。家福が朝岡のように穏やかに笑うことはほとんどないし、朝岡が家福のような複雑な心境を百音らに抱くこともない。けれど演者である西島が表に見える部分の演技だけでなく、役柄の核心部を丁寧に形作るからこそ、文学的に思える作品であっても、老若男女に親しまれる作品であっても、演じる役に人間味が溢れ、自然体に見えるのだろう。

 10月29日に最終回を迎える『おかえりモネ』の後にも、10月スタートの日曜ドラマ『真犯人フラグ』(日本テレビ系)や11月に公開の劇場版『きのう何食べた?』と、連続して主演作が控えている西島。さまざまな作風の作品に対応できる巧みさと役柄の本質に触れる演技力に敬服する。

■公開情報
『ドライブ・マイ・カー』
全国公開中
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、ペリー・ディゾン、アン・フィテ、安部聡子、岡田将生
原作:村上春樹『ドライブ・マイ・カー』(短編小説集『女のいない男たち』所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介、大江崇允
音楽:石橋英子
製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ビターズ・エンド
2021/日本/1.85:1/179分/PG-12
(c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
公式サイト:dmc.bitters.co.jp

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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