『Sonny Boy』の“音”の演出に注目 劇伴がないことによって生まれる効果とは

『Sonny Boy』音の演出に注目

  2021年はオリジナルアニメ作品の当たり年である、ということは井中カエル氏が書いている通りだ(2021年はオリジナルアニメ豊作の1年 今期は『Sonny Boy』『白い砂のアクアトープ』に注目)。

 マンガ・ラノベなどの原作アニメに放送前から注目が集まりやすいなか、オリジナルアニメは公式からの事前情報のみが頼りとなる部分が大きいこともあり、放送後の視聴者からのリアクション次第で大きく評価が変わっていくことが散見される。

 原作準拠のアニメ作品が「原作再現」を制作側・ファン側がどうしても意識してしまうのに対し、オリジナルアニメはそういった心配は一切なく、かなり攻めた映像演出や突飛なストーリーラインで視聴者の心をわしづかみにしてしまえる。今年で言えば『ワンダーエッグ・プライオリティ』や『オッドタクシー』がそれに当たる素晴らしい作品だったといえよう。

 こういったラインナップと評価軸にピタリと符号するような話題のオリジナルアニメ作品がある。現在放送中の『Sonny Boy』(TOKYO MXほか)だ。

 『スペース☆ダンディ』『ワンパンマン』で監督を務めた夏目真悟による初めてのオリジナル脚本のアニメーション作品で、アニメーション制作はマッドハウスが手掛けている。

 キャラクター原案を務めるのは、『ストップ!! ひばりくん!』『すすめ!!パイレーツ』で知られ、ポップで映えのある色彩感と美少女画で90年代半ば以降にはデザイン・イラストレーターとしても活躍している江口寿史。

 音楽アドバイザーには、『カウボーイビバップ』『サムライ・チャンプルー』『坂道のアポロン』などで菅野よう子やNujabesらを筆頭に素晴らしいクリエイターをそろえ、アニメーション×音楽のシナジーを捉え続けてきた渡辺信一郎。ある世代・あるフィールドの方々にはたまらないスタッフ陣で注目を集めていた。

 細かくパパっと変わっていくシーンのテンポ、陰影なども複雑な描きこみをせず、シンプルな手描きの絵画のようにすら感じられるタッチの作画。背景美術にはstudio Pabloの藤野真里が加わった。夏目監督から「手描きでお願いしたい、そして絵の具の色の強さや対比を見せたい」というオーダーがあったようで、場面全体のアナログな感触がより強く表現されている。

 多くのアニメでデジタル背景画が主流のなか、テレビアニメ作品で手描き背景の質感がしっかりと出ているアニメも珍しい。「自分たちが元いた世界からは、まったく関係のない世界に立っている」という登場人物らの感覚を、緻密さではなく色味を活かした背景画を用意することで非常にうまく表現している。

 そうした画の魅力はもちろんだが、注目すべきはアニメーションと音楽の絡みだ。監督・夏目真悟と総監督・渡辺信一郎のコンビで制作された『スペース☆ダンディ』では数多くの音楽クリエイターが参加していたが、本作には落日飛車(Sunset Rollercoaster)、VIDEOTAPEMUSIC、ザ・なつやすみバンド、ミツメ、Ogawa & Tokoro、空中泥棒、カネヨリマサル、toe、コーニッシュ、主題歌に銀杏BOYZという名が並ぶ。いったいどんな音がアニメーションと繋がりあうのか。

 今作がユニークなのが、これだけの布陣でありながらも、本作には音楽・劇伴がほとんど流れないということ。長良、希、瑞穂、朝風、ラジダニらによるナチュラルな掛け合いの声といくつかの効果音のみが、本作アニメの「音」になっている点だ。

 このような演出はアニメ作品ではほとんど見たことがない。スタッフロールを見てみてば確かに「劇伴担当」というような書かれ方がされていないので、このような演出に成りえる余地はあったとはいえ、これにはいい意味で裏切られたし、むしろ心地よくすらあった。

 本作を包むムードは、世界・社会から抜け出したという解放感ではなく、世界・社会へと戻れるのか? という不安感が主になっている。目にも映らぬ、口にも出せぬ、捉えづらい不安のなかで行動し続けるキャラクターたちの心理描写として、音楽を一切鳴らさないというのは非常にマッチしている。

 劇伴がほとんど鳴らないことによって生まれる、セリフとセリフの間に生まれる無言の空白、そこに先行きの見えない閉塞感が埋めつくされていく。音楽を鳴らさないという演出が、アニメーション作品でも非常に効いているといえよう。

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