『ワイスピ』シリーズ独自の演出を徹底分析 受け継がれるのは家族の絆だけじゃない?

 『ワイスピ』といえば、車にコロナビールに揺れるお尻と“家族”。そして困った時のニトロ。本当にこの映画を観ていると、ニトロがあれば何でも解決できるのではないかと錯覚してしまう。シリーズ9作目として現在公開中の『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』まで、この5つのエレメントはどの作品にも散りばめられてきた。一見、ひたすら続編が出るたびに派手なカーチェイスとめちゃくちゃなアクションをしているような印象がある(まあ、実際そうなんだけど)本シリーズだが、ここまで長い道のりを歩めたのは決してそれだけをやってきたからではない。そこに演出面、そして脚本面において前作までの流れをとても大事にする、丁寧さがあるからだ。

 何から始めたらいいのかと思うくらい、本シリーズは1作目から同じようなことを繰り返し、アップデートした演出が行われている。もちろん新しいことに挑戦し続けているわけだが、「これってあの時に見たあれだよね」という既視感があるものも多い。例えばキャラクターの立ち位置。初期のドミニク・トレット(ドム)とブライアン・オコナーの“犯罪者と警官”がタッグを組む図は、初のスピンオフ作品『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』のデッカード・ショウとルーク・ホブスの立ち位置に反映され、ドムが『ワイルド・スピード MAX』でレティを殺した敵に復讐を誓うプロットは、同じく『ワイルド・スピード SKY MISSION』でハンを殺したデッカードとの対峙に生かされていた。なお、このレティの死の偽装もまた、最新作で明かされる“ハンが実は生きていた”という部分に応用されている。

 そしてシリーズの多くで扱われる“潜入”。1作目ではロスで窃盗を繰り返すドムたちのグループを逮捕するためブライアンが潜入したことが全ての始まりだったが、その後2作目も彼とローマンが犯罪組織に潜入。4作目でも悪の親玉ブラガを捕まえようと1作目ぶりに再会したブライアンとドム、そしてレティが麻薬密輸組織に潜り込んだ。しかも6作目は、元ブラジル警察でホブスの部下になったエレナ・ネベスが敵側のスパイだったことが判明し、なんとファミリーが“潜入”される側に。7作目ではアブダビでゴッド・アイを奪還するためにヨルダン王子のパーティにブライアンらが潜入、そして8作目はある意味ドムが敵のサイファー側に潜入していたような作品だった。

 キャラクターの“動き”にもお決まりのものがある。例えば、ハンは常にハムスターみたいに何か口に食べ物を放り投げている。ドムはあれだけ運転がうまいのに、割と派手にカークラッシュしがちで、なにかと車から身を投げ出して路上に転がり難を逃れている。そして彼の彼女のレティも、割と走行する車から飛び出しがち。『ワイルド・スピード MAX』ではドミニカ共和国でガソリン運搬車を襲撃した際、トラックからドムの車に飛び乗り、その手をドムが掴んだ。このシークエンスは、『ワイルド・スピード EURO MISSION』でハイウェイを走行する戦車から、記憶を無くしたレティがそれでもドムを信じて飛び込み、彼が彼女をキャッチするシーンに重なる。『MAX』ではその後、レティが物語上死んだことになってしまい、二人は離れ離れになった。そんな彼女を再び取り戻すアクションが、手放す直前のものをなぞっているのは、なんとも感慨深い。ちなみに、この橋の上のハイウェイで車に何かを引きずらせながら、敵の車を落とそうとするという作戦は前作『ワイルド・スピード MEGA MAX』のラストでブライアンとドムが金庫を用いてやったことの応用になっている。

関連記事