岸井ゆきのは気づけばそこにいる 『#家族募集します』に至る活躍の背景に“笑顔”と“声質”?

「岸井ゆきの流の浸透の仕方で、もっと経つと当たり前のようにあなたの心の中に入っていく芝居をしていくと思う」

 2021年3月に岸井ゆきのがゲスト出演した『A-Studio』(TBS系)で、司会の笑福亭鶴瓶は彼女のことをこう評した。気づけばいつも“当たり前のように”そこにいる。それは未来の予言などではなく、もうすでにそうであると思う。意識し始めるよりはるか前に、私たちは岸井ゆきのの出演作にたくさん触れている。大根にだしの味が染み込んでいくように、岸井ゆきのはじわじわと我々の心に浸透している。

イメージを植え付けられたKANA-BOONのMV

 2009年にドラマ『小公女セイラ』(TBS系)でデビューしたのち、数々の映画やドラマ、五反田団やハイバイといった劇団の舞台などで認知度を高めてきた岸井ゆきの。その歩みは「一歩一歩登りつめてきた」という表現がふさわしいだろう。TBS日曜劇場『99.9-刑事専門弁護士-』(主人公・深山大翔に想いを寄せる加奈子役)とNHK大河ドラマ『真田丸』(主人公・真田信繁の側室・たか役)がともに2016年、NHK連続テレビ小説『まんぷく』(主人公・福子の姪・タカ役)が2018年であるから、「当たり前のようにそこにいる役者」になるまでには少なからず時間を要したこともわかる。

 10人いれば10通りの出会いがあるかもしれないほど、視聴者と岸井ゆきのとの関係は多様だと思う。しかしそのなかでも、2013年にYouTube上に公開され、現時点で9665万回の視聴回数を誇るある動画は、その数字の大きさからも彼女と出会う人が多かったキャリア初期の特筆すべき出来事であったはずだ。それというのは、ロックバンド・KANA-BOONが世に知られるきっかけにもなった楽曲「ないものねだり」のMusic Videoである。

KANA-BOON 『ないものねだり』Music Video

 ここで岸井ゆきのは、倦怠期と思われるカップルの片方を演じている。今では「笑顔」と「特別な声質」が魅力である岸井ゆきのであるが、このMVでは役柄上、最初から最後まで仏頂面で、喋ることも一切ない。しかしどうしても印象に残る。筆者はここで初めて彼女を見て、その後さまざまな映画やドラマで見つけるたびに「あ、あのMVの」と思っていた。主演として前に出てくることはあまりないものの、その特別な雰囲気と容姿が、一度出会うと忘れることのできないイメージを植え付けていく。

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