『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』が長尺となった理由 シリーズ回帰作の試みとは

 その対立的な概念として本作が描くのは、ファミリーの一員であるローマン(タイリース・ギブソン)とテズ(クリス・“リュダクリス”・ブリッジス)らによるユーモアを含んだサブストーリーだ。その内容は、“なぜ自分たちは危機に遭っても死なないのか”という、根本的な問いに迫っていくもの。これは、荒唐無稽になり過ぎたシリーズについて作品自体が違和感を言及することで、その点にいくらかの反省を示すと同時に、何らかの意義を見出してみようという試みに思える。このストーリーが存在するおかげで、作品は荒唐無稽さを保持しながらも、かろうじて一定の秩序を取り戻したのではないだろうか。

 シリーズの変化が、2作もの間、『ワイスピ』から離れていたジャスティン・リン監督にとって、悩みの種となったことは、容易に想像できる。そんなリン監督は、今回脚本に介入し、試行錯誤を重ねている。そして、シリーズの変化に対応して観客の期待に応えながらも、終焉へと向けて『ワイスピ』の本道へと立ち返る道筋をつけるという、非常に複雑な役割を引き受けているように感じられるのだ。それが、シリーズ最長の2時間25分という、長尺の上映時間を本作が必要とした理由ではないか。

 軌道修正の跡がよく分かるのは、やはりシリーズの原点である、ちょうど20年前に公開された第1作『ワイルド・スピード』(2001年)で示されていた、ドムの過去の物語にスポットライトが当てられた箇所だ。青年時代のドム(ヴィニー・ベネット)が犯罪稼業に足を踏み入れるに至った経緯が、見応えあるドラマと、レーサーだった父親の事故の真相をめぐるミステリーを含めて語られていく。

 そんな青年時代のドムが挑んだストリートレースでは、ゴールへと向かうホームストレッチ(最後の直線)に入って、どのタイミングで急加速するかが、勝敗の重要な鍵となっていた。大袈裟に言うなら、この何度も繰り返されてきた描写はシリーズにとって、レースを一つの人生に見立て、その全体を見据えることができる者が最後に勝利するという、一種の人生哲学でもあった。

 このタイミング問題は、リン監督による『ワイルド・スピード MAX』(2009年)でも描かれたように、シリーズの見どころであった、ドムとブライアン(ポール・ウォーカー)のレース勝負でも描写されている。この二人による、抜きつ抜かれつの勝負は、本来ならばシリーズの最終作において決着が見られたはずである。そしてそれは、互いの人生哲学へと昇華されたはずなのだ。しかし2013年のポール・ウォーカーの突然の死去によって、この戦いは予想外の中断を余儀なくされることとなる。『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)における、二人の走る道が分かれる幻想的なシーンによって、一人の俳優に対する喪失とともに、観客は重要なテーマがシリーズから失われたことをも実感することになったのだ。

 しかし本作では、新たなキャラクターの出現によって、ドムの人生が走りとともにあること、そして走りこそが人生の象徴であることが、再び印象づけられている。ドムはミスター・ノーバディの窮地を知りつつも、命のリスクを取ることに抵抗感を見せ、車を容易に出そうとはしない。それは、子どもを置いて自分が死ぬことで、父親を事故で失った自分と同じ思いをしてほしくないという感情が芽生えたためだろう。しかし、ドムは失ったはずの家族の一員という、かつてのファミリーを取り戻すために、再び走り始める。

 このように、原点に立ち返ることで走る理由を見つけるという本作の物語は、ポール・ウォーカーの事故以来、再び人生のレースというテーマへとシリーズを回帰することとなったといえよう。荒唐無稽アクションとしての存在感を継続して見せた本作に、同時に物語としての深みを取り戻そうとするジャスティン・リン監督の試みは、その意味において大きな意義があったのではないだろうか。この難題が一応の解決を見せたいま、あとは残された2部作、人生の結論に行き着くことになるだろうゴールへと向けて、ドムたちはホームストレッチを加速するだけである。

■公開情報
『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』
全国公開中
出演:ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソン、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ジョン・シナ、ジョーダナ・ブリュースター、ナタリー・エマニュエル、サン・カン、ヘレン・ミレン、シャーリーズ・セロン
監督:ジャスティン・リン
脚本:ダン・ケイシー
キャラクター原案:ゲイリー・スコット・トンプソン
製作:ニール・H・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、ジェフ・カーシェンバウム、ジョー・ロス、ジャスティン・リン、クレイトン・タウンゼント、サマンサ・ヴィンセント
配給:東宝東和
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