日本のアニメーション業界の一つの希望に TVアニメ『Sonny Boy』に感じる“新たな風”

 2021年7月、気になるTVアニメ『Sonny Boy』がスタートする。気になるというのは、6月に先行公開として配信された第1話が、日本のアニメーション界における新たな風を感じさせる内容だったからだ。

 監督を務めたのは、アニメーション監督として近年とくに期待が集まっている夏目真悟(『スペース☆ダンディ』『ワンパンマン』など)。今回は満を持して自らのオリジナル脚本で、いちから自分のやりたいものを追求した企画であるという。キャラクター原案に江口寿史、主題歌に銀杏BOYZの書き下ろし曲を依頼するなど、本作はこれまでになく監督の趣味を反映させているなど、本人も、本作の物語を「私小説」と語り、「ストーリーも映像も思うようにわがままに作らせてもらえて、こんな事はもう最初で最後だなと思います」と、コメントしている。

 クオリティも非常に高い。ヴィヴィッドでポップな色使い、小気味良く切り替わっていくカット、室内シーンが多いのにもかかわらずダイナミックに描かれる構図など、そこには「“普通のアニメ”は作らない」という気合が込められていることが、ひしひしと伝わってくる。

 第1話の舞台となるのは、周囲が暗闇に包まれた中学校だ。真っ黒な空間に、中学の建物がポツンと存在しているのである。楳図かずおの漫画『漂流教室』のように、建物が36人の生徒ごと、この世界とは別の場所へと飛ばされてしまったということらしい。第1話は、すでにそのような“異変”が発生して、しばらく経ったと思われる状況から始まる。しかも、この世界にやってきてからは、なぜか一部の生徒に超自然的な個別能力が発現し始めている。

 このような異常事態のなか、主人公の男子中学生・長良(ながら)は、一人で教室に寝そべって時間をつぶしている。彼は、帰国子女で転校生の女子生徒・希(のぞみ)に、この不思議な出来事について話題を振られても、「そんなこと考えてもしょうがないよ、そうなってんだから……」と、無気力に返答するだけだ。

 だが他の生徒たちは、この状況下でそれぞれに具体的なアクションを起こし始める。学校を取り囲む暗闇の謎を単独で検証するラジダニ、学校内で能力を振るい、我が物顔で闊歩する朝風(あさかぜ)や上海(しゃんはい)らのグループ、生徒会長ポニー、明星(ほし)ら卓越した頭脳で政治力を行使するチーム、いろいろな物資を独自にゲットしている瑞穂(みずほ)、そして、自分では決断せず、他の生徒の行動に従って右往左往する者たち……。

 なかでも明星は、友人の野球部員・キャップの心理を巧みに操り、彼を生徒代表に祭り上げ傀儡として利用しながら、裏で権力を握ろうと暗躍する策士だ。自分たちが決めた、一見公正に見えるルールを用いて、不満分子に“バツ(罰)”と称して強制的に懲罰を与えさせ、自分の手を直接汚さずに反乱の目を摘んでいく。

 おそろしいのは、操られたキャップが“バツ”を様々な生徒たちに宣告していくことで、彼自身の承認欲求や権力欲が満たされていき、力に酔って次第にタガが外れていく過程だ。最終的に、キャップは自分が気に入らなかったり思い通りにならないというだけで、ルールを犯してもいない生徒に懲罰を与えようとし始める。

 ここで思い出すのは、無人島にとり残された子どもたちが次第に恐怖政治を行うようになっていくという内容の、ウィリアム・ゴールディングの小説『蝿の王』(1954年)である。人類が生み出してきた、憲法などの“法の支配”が崩壊し、一部の人間によって好き勝手に政治が行われるようになることで、社会・集団はとたんに無秩序化し、地獄のような光景が繰り広げられることになる。『Sonny Boy』の第1話から与えられる不安は、この先にそれだけの地獄が展開されることがあり得るという点に他ならない。

 この学校内に、そのような危険を宿した空気がどんどん漂っていき、生徒たちが閉塞感に包まれていく様子は、これまでの歴史における様々な悲劇の予兆や、一部の限られた人間があらゆるものを掌握していく、現代社会のイメージが色濃く反映されていると感じられる。まさに、この学校は、われわれを取り巻く“閉じられていく社会”の縮図そのものである。そして、そもそも“学校”という場は、生徒の可能性を広げるというイメージよりも、むしろ自主性を狭め、人間を管理する場として機能していると感じられることがある。だからこそ、これまで学校に反逆する内容を持った創作物が、若者の自由のイメージと重なってきたのだ。

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