『閃光のハサウェイ』なぜここまで大ヒット? 徹底されたリアリズムと複雑な人間模様

『閃光のハサウェイ』なぜここまで大ヒット?

 もともと『閃光のハサウェイ』は『機動戦士ガンダム』の監督・富野由悠季が1989年に発表した小説が原作であり、ガンダム40周年プロジェクト(2018年)の中でアニメ化が発表された時点で、ファンからの期待は大きかった。当初の劇場公開予定は2020年7月だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響から幾度かの公開延期を迫られ、ほぼ1年遅れの2021年6月に全国で封切られた。長い間、公開まで焦らされたファンの期待感が大きく膨らんでいたこと、そんな期待感を裏切らない緻密な映像美、イラストレーターのPABLO UCHIDAが手がける、従来のガンダムキャラとテイストが異なるリアルな人物像など、衆目を集める要素は色々あるが、映画のチケットが特別料金1900円に統一されているのも大きく作用しているだろう。

 OVA(オリジナル・ビデオアニメ)を映画館でイベント上映する際に、シネコンの割引サービスが適用されない特別料金が設けられることがあるが、『閃光のハサウェイ』は学生料金よりも高い1900円均一で公開されている。シネコン各社が導入している“6回観たら次の1回は無料で”といった優待サービスも非対応の作品だけに、この特別料金が売り上げに大きく貢献しているのは想像に難くない。ただ、チケット代は別問題としても、ファンが何度も足を運びたくなる魅力的な映画でなければ、これだけのヒットは有り得ない。

 映画冒頭のテロ集団によるハイジャックは、現実でも世界各地で起こりうる恐怖であるし、逃げ惑う一般人の目線で描く市街地のモビルスーツ戦は、市民が巻き添えを食う空襲の恐ろしさが上手く出ている。そこへもってきて、12年前にアムロとシャアの宿命の戦いを見届けたハサウェイが置かれている複雑な環境と、彼に絡んでくる人間模様、この先の物語の行方など気になる要素は盛りだくさんだ。何度も繰り返し観て、咀嚼せずにはいられないだろう。加えて、『機動戦士ガンダムF91』(1991年)や、『機動戦士ガンダム0083-STARDUST MEMORY-』(1992年)、『機動戦士ガンダムUC』(2011年)など歴代のガンダムシリーズにアニメーターとして参加してきた村瀬修功監督の演出も、ガンダムファンの支持を得ている。映画『閃光のハサウェイ』は三部作と報じられているので、今後の動向にも注目したい。

■のざわよしのり
ライター/映像パッケージの解説書(ブックレット)執筆やインタビュー記事、洋画ソフトの日本語吹替復刻などに協力。映画全般とアニメを守備範囲に細く低く活動中。

■公開情報
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』
全国公開中
原作:富野由悠季、矢立肇
監督:村瀬修功
脚本:むとうやすゆき
キャラクターデザイン:pablo uchida、恩田尚之、工原しげき
メカニカルデザイン:カトキハジメ、山根公利、中谷誠一、玄馬宣彦
総作画監督:恩田尚之
音楽:澤野弘之
声の出演:小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一、斉藤壮馬、津田健次郎ほか
(c)創通・サンライズ
公式サイト:http://gundam-hathaway.net/
公式Twitter:https://twitter.com/gundam_hathaway

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