『あのキス』井浦新、「誰だ? お前」の豹変ぶりが凄い “一人二役”の変幻自在ぶり

 オジ巴(井浦新)が元夫の高見沢(三浦翔平)とキスする瞬間を目撃してしまった桃地(松坂桃李)。ショックのあまりその場から走り去ってしまう桃地だったが、オジ巴から桃地に告白し、2人は晴れて恋人に。関係性が変化した桃地とオジ巴の幸せな日々が続くと思いきや、『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)第6話では、オジ巴の身体に異変が現れ、暗雲が立ち込める。

 物語も折り返し地点を迎えたが、いよいよ本格的に井浦新が麻生久美子にしか見えなくなってきた。絶大な自信からくる美しさとカリスマ性、一方で子供のようにわがまま無邪気なところや人の内面を捉える繊細さを併せ持った巴。オジ巴の姿が演出上、時折本来の巴の姿と重なるが、性別も見た目も全く違う二人が“同一人物”だということを無意識のうちに受け入れている。

 そして、田中マサオという器に巴の魂が馴染んでいくに連れ、周囲との関係性にも変化が。桃地を不安にさせないために高見沢には頼らないと決めたオジ巴は、『週刊少年マキシマム』の編集部に乗り込み、あらゆる手段で自分が蟹釜ジョーであることを主張。誰もが簡単には信じられないといった様子だったが、これまでの伏線が全て回収された『SEIKAの空』最新話が編集者たちの心を変える。編集長の生馬(角田貴志)のアイデアにより、最終話までのプロットを遺した蟹釜ジョーの意志を引き継ぐ優秀なアシスタント“蟹釜ジョニー”としてオジ巴は連載を続けることとなった。

 また、マサオの息子・優太郎(窪塚愛流)にも真実を告げることに。優太郎は桃地と同じく『SEIKAの空』の大ファンであり、憧れの漫画家と奇妙にも結ばれた関係に大興奮。久しぶりに幸せそうな息子の姿を見た妻・帆奈美(MEGUMI)もなんだか嬉しそうだ。そんな優太郎と帆奈美を、体をくれたマサオの代わりに金銭的・精神的にもサポートしていくと決意したオジ巴。田中家はもともと不仲ではあったが、そこには家族を大切に思うが故のすれ違いがいくつもあった。しかし、マサオの心だけが失われたかもしれない今、仲直りすることもできない。自分のことだけではなく、そんなマサオの家族を気遣う巴の優しさが色んな人たちを繋いでいく。

 きっと普通なら、誰も“入れ替わり”なんて信じてくれないだろう。けれど強さと優しさを兼ね備えた巴には、人を味方につけるパワーがある。

「天才だって普通の人間だって、みんな夢敗れながら生きてんのよ!」

 アシスタントになって漫画家を目指したい優太郎と、情けをかけず冷たくあしらう巴。みんなが先生みたいな天才じゃないと優太郎をかばう桃地だったが、巴のその言葉にハッとさせられる。世の中には、驚くほどの才能を持った人たちがたくさんいる。天才漫画家、天才ミュージシャン、天才科学者、天才画家……。私たちは彼らを前に挫折し、時に羨望や嫉妬から陰性感情を抱くことも。けれど、いくら才能を持っていたってプラスαの努力がなければまた新たな才能に追い越されてしまう。巴もまた、プレッシャーの中で命を削るように面白い漫画を生み出し続けてきた。

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