『コントが始まる』『街の上で』など話題作で存在感 古川琴音は一瞬で空気を変える女優だ

 「若手で勢いのある女優は誰?」と聞かれたら、間髪入れずに「古川琴音」と答える。NHK朝ドラ『エール』では主人公夫婦の一人娘・古山華を演じ、『この恋あたためますか』(TBS系)ではヒロインとルームシェアをする中国人の友達役を、『泣く子はいねぇが』や『街の上で』といった映画でも印象的な役柄を好演している彼女。2020年から2021年にかけて急激に存在感を露わにしている古川琴音は今、じわじわとドラマ・映画業界を席巻しつつある。

 『コントが始まる』(日本テレビ系)で、有村架純演じる中浜里穂子の妹・つむぎ役を演じているのが古川琴音だ。主要キャストである菅田将暉、仲野太賀、神木隆之介と有村架純は、全員1993年生まれという接点をもつ。言わずと知れた人気俳優がずらりと並ぶなか、古川琴音は少し離れた1996年生まれ。役柄的にもひとりだけ年下だ。この4人の先輩俳優たちに混じって、「なぜ古川琴音がキャスティングされたのか」。その意味を一挙手一投足で裏付けするように、『コントが始まる』では毎回すばらしい表情を見せている。

絵画でしか表現し得ないような“微笑”

 『コントが始まる』での中浜つむぎというキャラクターは、20代も中盤に差し掛かりながら夢や目標がないことに悩む、“宙ぶらりんな人”として描かれている。一方の姉・里穂子は、大手企業に就職した優秀な人。そんな姉が会社での重圧に押しやられ退社したことを契機に、同居しながら弱っている姉を献身的にサポートするというのが古川琴音の役柄だ。

 この、ともすれば空っぽなキャラクターになりかねない“宙ぶらりん”な存在に確かな実存を与えているのが、古川琴音がこの役を勝ち取っている第一の由縁のように思える。つむぎは、自らのことを空っぽな存在だと思っている。特別やりたいことはないけれど、何者かにはなりたかった。

瞬太:つむぎちゃんは空っぽじゃないよ。
つむぎ:空っぽだよ。なんにも考えてないし、なんにも努力してないし。
瞬太:ほんとに空っぽな人ってさ、誰かを助けたいって頭で思うだけで、動けない人だよ。

 他人の心配はするが自分のことは蔑ろにしてしまうつむぎが、唯一気軽に悩みを相談できる存在である瞬太(神木隆之介)。彼との一連の会話の後に見せる古川琴音の“微笑”には、極めて多面的な感情が渦巻いているように見えた。微かな喜びと降り積もる不安が混じったような、もしくは受け手によってどうとでも取れる、微笑としか言いようのない微笑。例えるならば「モナ・リザ」における微笑に近い、絵画でしか描けないような奇跡的な表情をしていた。

 思えば、つむぎというキャラクターはセリフが少ない。それでも気がつくと、彼女の不安感や献身性、姉や瞬太への愛情が伝わってくる。それはなぜだろう、と考えると、やはり表情の訴えかけが素晴らしいのだ。言葉にしなくても伝わってくる感情、逆に言葉にしてしまうと消えてしまうような複雑な感情を、古川琴音はあるがままで体現している。

 第3話で里穂子が発する「どんどん手がつけられなくなっていく兄を、諦めない弟の必死な姿が妙に愛おしいんだよね」という言葉はつむぎのサポートへの感謝を暗に示していたが、それを受けたあとの古川琴音もセリフではなくニヤつきで感情を表現する。第7話では想いを寄せる瞬太から不意にキスされ、「下手くそ」とだけ言いながら抱き寄せるシーンもあった。言葉にならない“宙ぶらりん”な感情を表現できる役者であるから、“宙ぶらりん”な役柄にも多面的な性格が浮かび上がってくるのだ。

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