『タイタニック』はパニックアクションとしても超一級品! 映画史に残る撮影時の伝説とは

 さる5月7日に『タイタニック』(1997年)が『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で放送され、「前編」として主人公のジャック(レオナルド・ディカプリオ)とローズ(ケイト・ウィンスレット)の微笑ましい恋愛模様が描かれた。望まぬ結婚のせいで完全に目が死んでいたローズと、自由奔放な青年ジャック。ローズはジャックと触れ合ううちに、本当の自分と向き合う。そして婚約破棄を決意して、追手をかわしてタイタニック号の中を走り回るのだった……。この前半部分の高揚感は何十年経っても色あせない。そして5月14日には「後編」の放送が控えている。ここで何が起きるかというと、ご存じの通りタイタニックが沈んで、ジャックとローズが大変な目に遭う。しかも単に船が沈むだけではない。後にレオナルド・ディカプリオが「男にしてもらった」と振り返る過酷な撮影を経て形となった、映画史上に残る大スペクタクルが炸裂するのだ。本作は恋愛映画であるが、同時にパニックアクション映画としても超一級品なのである。そんなわけで今回は、後編の放送の前にパニックアクションとしての本作の見どころ、そして撮影時の伝説をいくつかご紹介したい。

 『タイタニック』が不朽の名作となった理由は、ひとえに監督のジェームズ・キャメロンがイイ意味で異常者だったおかげである。この映画の制作は、最初から最後まで正気の沙汰ではなかった。本作の撮影にまつわる伝説は語り始めるとキリがない。たとえば……監督直々に潜水艇で海底に眠る本物のタイタニックを見に行ったとか、実物大のタイタニック号を(半分だけ)再現したセットを作ったとか、撮影のために東京ドーム3個分くらいの撮影所を建てたとか、撮影開始前の時点で常軌を逸したスケールになっていた。ちなみにキャスティング時にも揉めた。ジャック役に興味を持ったトム・クルーズとエージェントが接触してきたが、キャメロンは「歳だから」と正論で拒否(大スターを相手に、これもなかなかできることではない)。ほどなくディカプリオが決定するが、キャメロンとディカプリオはジャックのキャラクターについて衝突を繰り返す。キャメロンは明朗快活な、誰もが好きになる好青年を思い描いていたが、ディカプリオは陰のあるキャラクターにしようと脚本の修正を求めた。2人は意見を交わし続けたが、遂にキャメロンがブチギレて「君は演じがいのある役というものを勘違いしている」と一喝。ディカプリオはずっと本作に対して懐疑的だったそうだが、この日を境に態度を改めたという。

 すでに嵐の予感だったが、いざ撮影が始まると、さらなる地獄が待っていた。誰も撮ったことのないスケールの映画を、誰も使ったことのない最新技術を導入して作るのだ。見積もりはすぐに破綻して、スケジュールは遅延。金も凄まじい勢いで消えていった。予算を巡るゴタゴタは日常茶飯事で、映画会社は日に日に増していく赤字に頭を抱える。しかしキャメロンは妥協する気配を見せなかった。誰よりもこだわり、誰よりも働いた。実際この映画には、キャメロンの“現場伝説”が多い。たとえばキャメロンが船室のセットを見て、「イメージと違う!」とダメ出し。ここで普通なら担当者にリテイクを命じるが、キャメロンは自分でペンキを塗り替え始めた。1日が終わる頃には、明らかにスタッフが作ったものより良くなっていたという。別の日にはこんなこともあった。氷山と衝突するシーンの撮影ために巨大な氷が届くと、誰よりも先に斧を握り、眩しい笑顔で氷を砕く男がいた。キャメロンだ。「監督にさせる仕事じゃない!」と慌ててスタッフが続くと、キャメロンはひとまず斧を手放した。しかし担当スタッフの1人がバテると、キャメロンはその人から斧を奪って、また氷を壊し始めた。思いついたら決して止まらず、誰よりも働き、誰よりもこだわり、誰よりも結果を出す。キャメロンは、そういう妥協なき男なのである(あまりに厳しい撮影にブチギレたスタッフも多く、ケータリングにドラッグが盛られ、スタッフがラリってしまう事件も起きた)。そんな男が1500人以上の犠牲者を出した歴史的大惨事を完全再現するのだ。もちろん、映画のクライマックスになる沈没シーンの撮影は過酷を極めた。

 『タイタニック』の後半では、船が徐々に傾き、沈没するまでが描かれる。そしてクライマックスは、激しく傾いた船のデッキ上を人が次々と滑り落ちていく地獄絵図だ。このシーンのため、キャメロンは傾斜をつけることのできる船尾デッキのセットを作り、150人のエキストラと100人のスタントマンを集めた。そして「アクション!」の合図で100人のスタントマンを落下。100人が同時に滑り落ちるのだから、当然スタントマン同士はぶつかり、落下地点を見誤って負傷する者もいた。非常に危険な撮影だったが、なんとキャメロン自身もスタントマンに混ざって、カメラを持って滑り落ちたという。撮影を兼任する監督はいるが、ここまでやる映画監督はそうそういない。こうした体当たり演技&演出と、当時最新の特殊効果の導入もあり、このシーンは映画史上に残るパニックシーンに仕上がった。

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