『鬼滅の刃』北米でも記録を塗り替える大ヒット! その要因は“データ”にあり?
4月23日より北米で劇場公開されている『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(英題:Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba the Movie: Mugen Train)は、公開2週目にしてボックスオフィスの全米ナンバーワン作品となった。約1600館で公開されたオープニング週末は2100万ドル(約22億円)を計上し、米国における外国語作品の公開週最高の興行収入記録となった。現在までの北米興行収入は3712万ドル(約37億円)で、今後も記録を塗り替えていくだろう。
公開2週目には、3000館以上で上映された『モータルコンバット』を抜いて1位になったわけだが、最も異なる条件は『鬼滅の刃』が劇場でしか上映されていない作品だということ。ワーナー・ブラザースの2021年劇場公開作品は全て系列ストリーミングサービスであるHBO Maxで同日配信されていて、『モータルコンバット』も例外ではない。そして、未だに“アニメ=子ども向け”という概念が根強く残るアメリカにおいて、『鬼滅の刃』はR指定(17歳以下は保護者同伴が必要)で上映されているということ。ちなみに日本では映倫によってPG12 (12歳未満は保護者の助言と指導が必要)に指定されている。もはやアニメは家族向けジャンルの一つではなく、万人向けのエンターテインメントと化していることを、興行収入という紛れもない数字で証明してみせたのが『鬼滅の刃』の全米ナンバーワン奪取なのだ。
そして驚くべきことは、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は26話からなるシーズン1の続編であって、前知識がなくても楽しめるスタンドアローン作品やスピンオフ作品ではないということ。完全な状態で映画を観るには、アニメに特化したストリーミングのクランチロールや北米配給会社のファニメーションのストリーミングサービス、NetflixやHuluなどで鑑賞前準備が必要だ。そのハードルを下げるために、ファニメーションのストリーミングサイトでは、登場人物やストーリーを短く凝縮したリキャップ映像を配信している。前述したように、アメリカにおいてアニメは長らく子どもや家族連れのためのジャンルと考えられてきたが、そんな思い込みは過去のものとなった。今作が字幕版と吹替版の両方で上映されていることからも明らかだ。アニメ作品は、細かくジャンル分けされた専門的ストリーミングサイトだけでなく、Netflixなどで配信され始めてからアニメファン以外にも視聴層の裾野を広げている。これは韓国ドラマの世界的人気についての記事でも言及したように、世界の魅力的なコンテンツを揃えるストリーミングサービスがもたらした意識改革の一つと言えるだろう(参考:全方位にエンタメ極める韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』 その革新性と世界的大ヒットの理由を考察)。
アルゴリズムによるレコメンデーション機能はジャンルをまたがり、過去の視聴傾向と同じような作品を観ているメンバーの視聴傾向から編み出される。アニメ作品も実写作品もドキュメンタリーも同様にレコメンデーションに現れるのはそのためだ。
北米における『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の公開館数は、ファニメーションとして最大規模で、それに伴い興行成績も最大のものとなっている。通常のアニメ作品の劇場公開ではアニメファンが集結するコミュニティに向けたインサイダー重視のプロモーション展開を行うが、今作ではロサンゼルスのリトルトーキョー駅(全米のアニメファンの聖地でもある)周辺を走るメトロのラッピング電車も登場した。