S2上陸の『バリー』、堂々たる大河ドラマ『ザ・クラウン』 GWに観たい海外ドラマ4選

『ブリジャートン家』(Netflix)

『ブリジャートン家』

 ただでさえ気持ちが重くなりがちな緊急事態宣言下に、ちょっと重めのラインナップが続いてしまった。ここで華やかな『ブリジャートン家』の名前を挙げておこう。昨年末に配信されるや、全世界8200万世帯で視聴されたNetflixの新たな人気作だ。

 19世紀初頭のロンドンを舞台にした本作は、貴族令嬢ダフネの結婚騒動を描いたジェーン・オースティン風のラブコメディ。恋のさや当て、嘘、そしてロマンチックな結末とお約束が詰まった本作最大の特徴は時代考証を完全に無視したキャスティングにある。この世界には奴隷制度がなく、黒人の貴族が多く登場するのだ。「またポリコレにおもねた」という声も聞こえるが、これは人種や性別によって配役を限定しない“カラー・ブラインド・キャスティング”という演劇ではおなじみの手法。これを映像作品で実践した作品は非常に珍しい。この結果、従来ならイギリス白人俳優の専売特許だったコスチューム劇に新風が吹き、多くの黒人俳優がその才能を発揮している。中でも恋のお相手となる公爵サイモンを演じたレジェ=ジーン・ペイジは本作で人気が爆発した。

 これは決して根拠のない作劇ではない。重要人物の1人であるシャーロット王妃には黒人の血を引いていたという学説があり、また同じ時代にはダイド・エリザベス・ベルという黒人貴族がいた。ベルの養父マンスフィールド卿はイギリスにおける奴隷解放の機運となった“サマセット事件”の判決を下した人物であり、これらの経緯は映画『ベル』にも詳しい。そんな歴史の裏打ちをわかって観ると面白さもより深まるだろう。1話約1時間で全8話。一旦のクライマックスを迎える感涙必至の5話までと、そこからもうひと波乱が起きる後半3話というペース配分がオススメだ。

『ザ・クラウン』(Netflix)

『ザ・クラウン』

 最後に、本稿の趣旨には合わないが、既に4シーズン計40話が配信されている『ザ・クラウン』を紹介したい。エリザベス女王の夫フィリップ殿下の逝去や、ヘンリー王子と妻メーガン王妃のゴシップなど、ここ最近、日本のお茶の間に聞こえてくることの多い英国王室。その内幕を徹底的に描いたNetflixの看板シリーズだ。最新シーズン4ではついにチャールズ皇太子とダイアナ元妃の世紀のロマンスの裏側が描かれ、視聴者のゴシップ的好奇心を刺激している。

 しかし『ザ・クラウン』の真価はそれだけではない。1950年に即位した女王を通じての戦後近代史の批評であり、シーズン4では1979年から11年間もの長期に及ぶマーガレット・サッチャー政権時代のイギリスが描かれる。サッチャーの唱える“自助”によって追い込まれた失業者が女王の居室に忍び込み、語り明かしたとされる1982年の事件を描いたシーズン4第5話は、ここ日本でも多くの人に刺さるのではないだろうか。「シーズン4だけ観ても楽しめる」といった論調もあるようだが、女王はじめとする王室メンバーの“私(わたくし)と王位”の葛藤を描き続けてきた本作の意義はシーズン1から観なければ伝わらない。演技も演出も超一級品。ビンジせず1日1話、いや1週間に1話ペースでじっくり観てもいい堂々たる大河ドラマである。大型連休をはみ出してでも、ぜひ挑んでもらいたい。

■長内那由多(Nayuta Osanai)
映画・海外ドラマライター。東京の小劇場シーンで劇作家、演出家、俳優として活動する“インデペンデント演劇人”。主にアメリカ映画とTVシリーズを中心に見続けている。作品のエモーションを共有できるようなレビューを目指しています。Twitter映画・海外ドラマ レビューブログ

■配信情報
『ギャング・オブ・ロンドン』
STARZPLAY(Apple TV+、Amazon Prime Videoチャンネル)にて配信中

『ブリジャートン家』
『ザ・クラウン』
Netflixにて配信中

『バリー』
シーズン1:U-NEXTにて配信中
シーズン2:5月12日(水)よりU-NEXTにて見放題で独占配信
(c)2021 Home Box Office, Inc.

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