『おちょやん』千代がみんなの「お母ちゃん」に 一方、過去の過ちに縛られたままの一平

『おちょやん』千代がみんなのお母ちゃんに

 千代(杉咲花)が母親役を演じるラジオドラマは大盛況。千代は多くの人から「お母ちゃん」と呼ばれ、親しまれるように。だが連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)第108回では、長澤(生瀬勝久)の入院、五女の静子(藤川心優)の家出が重なり、藤森家にピンチが訪れる。その頃、道頓堀では一平(成田凌)が自ら筆を折ろうとしていた。

 一度は苦悩を味わい女優の道から退いていた千代も、今やすっかりみんなの「お母ちゃん」。世話好きで喜劇女優としての実力がある千代にぴったりの役柄だ。大人気の「お父さんはお人好し」はとうとう1時間の特番の放送が決定する。しかしこのタイミングに脚本家の長澤が盲腸で入院してしまった。心配し見舞いに訪れた千代に、長澤はキャストの決め手について切々と語る。その姿からはどれほど「お父さんはお人好し」を大切にしているかが見てとれた。その夜、ラジオドラマでの出番を増やしてほしいと話していた静子が、千代の家を訪れる。家出だった。

 千代は見舞いに行ったことで、長澤がどんな思いで「お父さんはお人好し」の脚本を書いてきたのかを知ることになる。戦争が終わり、帰らぬ家族を待ち続けてしまう人、失った悲しみに暮れる人、仕事をなくしてしまった人と、様々な苦労が日本を襲った。そんな中で長澤は、“何気ない家族の姿”を描こうと思ったという。そしてそのキャスティングに選んだのが“前を向いている人”。「前を向いて生きる人たちだからこそ戦後の皆に元気や勇気を届けられる」と語る長澤は、千代もまた前を向いて生きているから仕事を依頼したのだと打ち明けた。この言葉の通り、千代はもう新たな道を歩み始めているのだ。

 その一方で、千代と別れた一平は自身の行いをいまだに悔いたまま立ち止まっていた。自分の人生と向き合えていない一平は、脚本も思い通りに書けずに苦しむ。ラジオからは千代の活躍が聞こえ、それもまた一平の心を焦らせているのだろう。とうとう一平は寛治(前田旺志郎)を呼び出すと自分の代わりに脚本を書くことを依頼する。一平の身勝手な提案や、自身の人生と向き合えていないことをわかっている寛治は「かっこつけんと丸裸になれや」と声を荒げるのであった。

 千代とは対照的に、一平は今でも過去の過ちに縛られたままでいる。幸せになることもできず、かといって千代や灯子(小西はる)とのことを芝居にして昇華することもできないまま。かつてはそんな一平を引っ張り上げてくれた千代という存在がいたが、今の一平は自力でこの苦しみから這い出せるのだろうか。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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