風間俊介、松岡茉優らによって輝く言葉たち 肉声だからこそ得られる、坂元裕二作品の妙味

風間俊介、松岡茉優らよって輝く坂元裕二の話

 筆者は本作を読んでいたのだが、俳優の声によって生々しく立ち現れるキャラクターは、書籍の活字から想像していたものとはやはり異なるものだった。待田健一は風間俊介のような面立ちをしており、田中史子も松岡茉優の容貌を得ているのだ。“得ている”というと、ちょっと語弊がある。風間と松岡が声によって、実体のない待田健一と田中史子に命を吹き込んでいるのだ。このふたりのキャラクターがその時々で見せる表情や、彼らを取り巻く景色は観客それぞれによって違うものなのだろう。声だけで表現しなければならない俳優の力も試されるが、私たちの想像力も試されるのだ。

 特に本作では、各キャラクターによって情景描写がなされることが何度かある。印象深いのが、待田健一が渋谷百軒店商店街の情景を語る場面だ。都内在住の方であれば、一度は訪れたことがあるのではないだろうか。かつては渋谷でもっとも栄えていた地域である。昔ながらの定食屋やバー、無料案内所に、この地のシンボルともいえる「名曲喫茶ライオン」、そしてその先に広がるホテル街ーー。彼がどのような心持ちでこれらを目にしたのかが、読み上げる風間の声色からリアルに伝わってくる。筆者が実際に目にしたことのある光景だからというのもあるが、観客の脳内にはハッキリと“画”が浮かび上がることだろう。朗読劇には朗読劇でしか味わうことのできない、強い魅力があるのだ。

 さて、本作はタイトルにもあるとおり、「不倫」を描いた作品である。妻を失い悲嘆に暮れる待田健一へ、田中史子からメールが届くのがはじまり。彼らはまったくの他人同士であったが、不倫をしている男女の夫と妻として、つながり合うことになる。“他人”から、“他人ではないなにか”へと関係性が変化する。そこでふたりの間に生まれる関係もまた、「不倫」である。物語が進むごとにこの男女の親密さは増し、待田健一の悲しみと田中史子の苦しみは、しだいに悦びへと変わっていく。気怠げな風間の声は明るくなり、機械じみた松岡の声は丸みを帯びて人間的になっていく。この絶妙な変化のさじ加減には、彼らの声による芝居の技術の高さへの驚きを禁じ得ない。“生”だからこそ分かるものだろう。

 とはいえ、これは作品の持つ可能性の、バリエーションのひとつにすぎない。同じ作品であってもほかの俳優が演じれば/読み上げれば、立ち現れるキャラクターの顔が変わることはもちろん、そこで見える景色も違うのだろう。リズミカルに展開する書簡による対話と、交わされる言葉の奥深さ。肉声だからこそ得られる、坂元作品の妙味がここにある。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公演情報
『坂元裕二 朗読劇2021』
4月25日(日)東京・よみうり大手町ホール
5月7日(金)5月8日(土)札幌・道新ホール
作・演出:坂元裕二
音楽:諭吉佳作/men
出演:高橋一生×酒井若菜、千葉雄大×芳根京子、林遣都×有村架純、
風間俊介×松岡茉優、福士蒼汰×小芝風花、仲野太賀×土屋太鳳(出演日順)
上演内容:「忘れえぬ 忘れえぬ」、「不帰(かえらず)の初恋、海老名SA」、「カラシニコフ不倫海峡」

■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

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