倉悠貴、色気を放つ唯一無二の役者に 視聴者に刻まれた『おちょやん』ヨシヲの生き様

 終戦から3年、千代(杉咲花)と一平(成田凌)は、家庭劇で地方公演を続けている間も、寛治(前田旺志郎)が満州から帰ってきたときに困らないようにと心を砕いていた。満州に送り出す際の「毎月必ずお給金を送ること。もし、できなくなったらすぐに帰ってくること」といった千代との約束は最初のひと月だけ守られたが、それきり音信不通になってしまった寛治。

 その寛治が満州の首都、新京から帰ってきた。案の定、酒と女と博打に溺れていたのだが、そんな寛治を助けたのが思いも寄らない人物、竹井ヨシヲ(倉悠貴)だった。第12週で千代の前に突然現れた最愛の弟、ヨシヲを演じた倉悠貴は2019年に俳優デビューを果たした21歳。千代が奉公に出されたことで消息が分からなくなっていたヨシヲだが、幼い頃に別れたあどけない健気な男の子の面影を残して成長していた。良い子に育ってくれたと安心させつつ、じつは過酷な環境で荒んで体には刺青を入れ、悪事に手を染めていたという驚きのギャップを見せた。

 女優になって成功した千代を応援するどころか「姉やんがいてくれたなら、俺はこねなことになれいんかったのに」と、暗い目をした憂いのある表情を見せ、鶴亀を潰すために芝居小屋に火をつけようとするなど騒動を起こしてしまう。放火も未遂に終わり、大山社長(中村鴈治郎)が話をつけて悪い仲間はすぐに手を引いていたのだが、「今の仲間以外、誰も俺を助けてくれへんかった」と不信感をあらわにする。

 かと思えば、「ヨシヲのためなら死ねる」とまで言っていた千代の思いを一平が伝えると反発しながらも繊細な一面をのぞかせる。姉としてだけでなく、母のような千代の大きな愛情を感じつつ、これ以上いたら戻れなくなると言ってヨシヲは神戸に帰っていった。千代は引き止めることができず、母の形見のガラス玉を渡して「いつか必ず返しにくるのやで」「元気で」と、その去っていく背中に言葉をかけるしかなかった。

 あれから数年の歳月が流れ、満州で博打に負けてからまれている寛治をヨシヲは偶然助けた。レストランの店長となり、大人っぽい落ち着いた雰囲気を漂わせているが、寛治から家庭劇のことを聞くと「何ちゅうたかな、あのええ女優さん」と話を振り、ルリ子(明日海りお)さん、香里(松本妃代)さん、ほな千代さんと最後に名前が出ると「それ、その人。今どないしてる?」と目を輝かせる。

 寛治が満州に来る前には千代と一緒に暮らし、面倒を見てもらっていたこと、千代と座長の一平は結婚して夫婦になったことを聞き、うれしそうな笑顔を見せる。その笑顔には千代への信頼と愛情を取り戻せたことが伺えるだけでなく、千代と再会した後にヨシヲがどう生きてきたのかも表れていた。

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