綾野剛×清水崇監督が語る、『ホムンクルス』映画化への覚悟と根底にあった“愛”の話

綾野剛×清水崇監督『ホムンクルス』対談

信じることと疑うこと。「役作りはアクション映画的な段取りに近かった」

――綾野さんは本作で見えないものが見えるという役柄でしたが、役作りはどのようにされていましたか?

綾野:勘です。もちろん芝居をリアリティのあるものにするために色々なプロセスは踏んでいましたが、そこは原作の力をお借りして、元のイメージをトレースして、信じ抜いていました。僕はこの、“信じる力”と“疑う力”ってどちらが強いんだろうって毎回思うんです。例えば名越が最初にホムンクルスを見たときのシーンで、恐れ驚き、倒れてしまっても良かったし、現場はその準備もしてくれていました。しかしなぜ、自分はそうしなかったのか考えると、名越がどこかで疑う力の方が強い人間だったからだと思って。僕は信じる力が年々強くなっていますが、名越は相当疑うタイプで、ホムンクルスがうじゃうじゃいる街の様子を見ても、目の前のロボットに殴られてもまだよく信じられない。でも、どんどん目の前のことを信じるしかなくなって、“疑う”から“信じる”への意向が、劇中では光と影で表現されます。疑う強さと信じる脆さが。その中で見えないはずのものが見えたときの肉体リアクションというのは、どこまでも生理現象で、自然な“反応”でそれは頭で考えていることを凌駕するんです。だから、考えずに体の反応を豊かにすること、自分の肉体の瞬発力を生かすことに重きを置きました。そういった点では、アクション映画を撮る時の段取りに近かったです。

清水:現場でこんな話ばかりしていたね。綾野くんは、その場で見えていないものを真っ向から信じて演じる姿が印象的で。彼が生きた名越でいてくれたので、こちらもそのリアクションに合わせた仕上げやCGを施して応えなければと、手が抜けませんでした。この業界は、他人を信じ抜くしかないと思います。架空のものをエンタメとして作る限り、俳優も監督も、圧倒的に信じるという選択をしなければいけないなと。

MVPは成田凌ーー石井杏奈の繊細さと大胆さ

――本作で名越に声をかけたマッドサイエンティスト的なキャラクター、伊藤を演じた成田凌さんとは『新宿スワン』でも共演されていましたが、本作ではどうでしたか?

綾野:間違いなく本作のMVPだと思います。伊藤はある種のストーリーテラーなので、彼の欲求や感情として説明セリフを言わなければいけない、非常に難しい役柄だったと思います。伊藤が感情に乗せて、朗々と知識をあけすけに話すことで物語は進むので、伊藤の存在なくしては作品が根底から成立しません。そのなかで、最高のパフォーマンスをしてくれた成田くんに感謝していますし、『新宿スワン』のときにも感じた彼の類稀なる神経回路の切り替えは、ワクワクします。また、別の作品でも共演したいですね。そして、石井杏奈さんも素晴らしかったです。彼女には繊細さと大胆さが備わっていて、お芝居を通して、伝わってくる彼女の気持ちが、とても感情豊かでした。1775は、物語や名越の内面に関わってくる人物だったんですが、もうどうなってもいいから、やりきってみようって思える懐の広さがあって、僕自身とても助けられました。

清水:彼女はちゃんと自分の中に1775を見出してやってくれていました。綾野くんと杏奈ちゃんの二人なら絶対大丈夫だと思えました。車中のシーンは形としては名越が能動的に動いているようで、実は彼の方が怯えて怖がっているんです。男性が持ち得ていない、女性の内面の怖さが見えるようにしたい、という思いで作った大事なシーンでした。

――お二人は、名越のように他人のそういった内面が見られるようになったら、見たいですか? 見たくないですか?

清水:怖いけど見たいですね。ずっと見えているのは嫌だし、気が狂って死んじゃうと思いますが(笑)。撮影現場や映画製作の現場に入ったときから、それは覚悟していたような気がします。

綾野:なんでも見られるものは見ますよ。自分が経験できるものや探究できるもの、好奇心がなくなったら終わりですから。

――ホムンクルスを含め、一見“気味が悪い”ように見えて、徐々に本作のテーマが「愛」であることが明かされていくのが印象的でした。清水崇監督の作品は、たとえそれが心霊を扱ったホラーでも何でも、「愛」というものが根底にあると感じます。

綾野:僕自身、「愛」については、まだまだ分かりえないことがたくさんあるんですが、愛の原点というのは“眼差しを向けること”だと思っています。名越は頭蓋骨に穴を開けたからではなく、それによって最終的に出会ったチヒロのおかげで「愛」を発見できた。人から離れていっていた名越が、チヒロから「愛」を受け取り、それをバトンのように伊藤に渡せたというのは、とても人間的なことでした。撮っている段階では、カルト強度のある作品になるとは思っても、ここまで「愛」のある作品になることは確信していませんでした。

清水:ホラー映画で「愛」を語るなんて照れ臭いし何だしなと思っていますが、この『ホムンクルス』では初号試写のとき、思いがけず「愛の映画ができました」と口にしていて。自分でも驚き恥ずかしくなりましたが、自信をもってそう感じられたからだと思うんです。それと、気味の悪い、変態ばかりの世界を映したとき、それを観た観客が「あなたもその内の一人なんですよ?」ということに気づいてくれたかどうかが、僕は知りたいですね。

綾野:僕は、ホムンクルスはマイナスな考え方からくるトラウマの具現化ではなく「愛の形」なのではないか、ということに最終的に行き着きました。それは、原作漫画を読んでいて発見しきれなかったところかもしれません。紛れもなく映像化したことによって見えたものだったし、胸を張ってこの作品を届けることができました。

※江崎文武の「崎」は「たつさき」が正式表記。

■公開情報
『ホムンクルス』
劇場にて期間限定公開中
Netflixにて、4月22日(木)より全世界独占配信スタート
出演:綾野剛、成田凌、岸井ゆきの、石井杏奈、内野聖陽
監督:清水崇
原作:山本英夫『ホムンクルス』(小学館『ビッグスピリッツコミックス』刊)  
脚本:内藤瑛亮、松久育紀、清水崇
メインテーマ:millennium parade「Trepanation」
音楽:ermhoi、江崎文武
プロデュース:古草昌実
企画プロデューサー:宮崎大
プロデューサー:中林千賀子、三宅はるえ
配給:エイベックス・ピクチャーズ
制作プロダクション:ブースタープロジェクト
In association with Netflix
(c)2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ
公式サイト:homunculus-movie.com
公式Twitter・Instagram:homunculus_eiga

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