『おちょやん』『エール』『まんぷく』 朝ドラヒロインたちが向き合ってきた戦争

 『おちょやん』(NHK総合)の第17週で描かれたのは、戦争真っ只中の昭和19年。明るく、どんな困難に直面しても前を向いて進んでいける千代(杉咲花)だが、戦争によって大切なものが奪われていく受け入れがたい状況が続く。

 本作に限らず、朝ドラにおいてヒロインが戦争の時代をどう生きるのか、また戦後の混乱の中をどうやって生き抜くのか、というのはその作品ごとに大きな意味を持つ。『おちょやん』は朝ドラ第103作目となるが、明治生まれの朝ドラヒロインは千代を含めて27人。ちなみに『エール』の主人公、古山裕一(窪田正孝)は明治42年生まれで裕一を入れると28人になる。

 『エール』の裕一は実在の作曲家・古関裕而、妻の音(二階堂ふみ)は声楽家の古関金子がモデルとなっているが、彼らの人生は戦時中に大きな転機を迎えた。出征する兵士を送る歌として戦時歌謡が大ヒットし、戦時歌謡の第一人者とまで呼ばれるようになる。『おちょやん』でも敵性音楽のジャズは販売も演奏も禁止、「福富楽器店」で売れるのは軍歌のみとなり、裕一が作曲した「露営の歌」が店に流れていた。

 軍歌が嫌いな福助(井上拓哉)は出征する前に千代や一平(成田凌)たちの計らいでトランペットを思う存分吹くことができたが、みつえ(東野絢香)や一福(歳内王太)を残して戦地へ旅立つ胸の内を考えるとつらい。シズ(篠原涼子)が守り続けてきた「岡安」も戦況悪化で暖簾を下ろすしかない。劇団員たちは、それぞれに事情を抱えながらも必死で守ってきた家庭劇を解散にまで追い込まれ、それでも芝居をやりたい気持ちを捨てることができず、稽古場に戻ってきた。

 家庭劇にみんなが集まっても、公演できる場所がない。一平が必死で芝居小屋を探し、やっと京都で公演できると思っていた矢先、昭和20年3月13日の深夜に大阪大空襲があったと知らせが届く。大切なものが奪われるだけでなく、命さえ犠牲になるのが戦争。『なつぞら』のヒロイン、奥原なつ(広瀬すず)は、同年3月10日の東京大空襲により母を失い、父親が戦死したため、兄や妹とも離れて父の戦友に引き取られて育った。

 『エール』の場合は、作品の第18週に人々を鼓舞する戦時歌謡の大ヒットで名声を得た裕一が初めて戦地最前線のビルマ(現ミャンマー)を慰問する場面を描き、大きな反響を呼んだ。無謀な作戦の代名詞ともなった「インパール作戦」が進行する中、裕一は「ビルマ派遣軍の歌」を作り、兵士たちとコンサートを開こうとするが、銃撃戦により恩師の藤堂(森山直太朗)を目の前で亡くす。重く、見応えのあるシーンは、深夜に一挙再放送が決定するほどドラマにとって重要な局面を描いていた。

 先の見えない時代に千代と一平は芝居への思いを再確認していたが、『エール』の裕一と音もそれぞれに音楽に対する思いに揺れていた。音は音楽挺身隊に参加した際に「戦争の役に立たない音楽などいらない」と言われ、違和感を覚える。音楽挺身隊は音楽を戦力増強の糧と見なし、音楽は心を豊かにするものだと考える音は納得することなどできなかった。戦争の影響を受けて突き進む裕一に対しても音は複雑な思いを抱えていた。

 また、白い割烹着姿がトレードマークの国防婦人会にしぶしぶ参加するものの、音には戸惑いや違和感しかない。『おちょやん』第81話ではトランペットを吹こうとした福助のことを警察に告げ口するのが国防婦人会の女性で、第84話では福助のトランペットを供出するように押し掛けてきた。いつの時代でも正義をかざして互いを見張り合うような環境というのは居心地のいいものではない。

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