土屋太鳳も祝卒業 若手俳優の大学進学が増える中、芸能人と高等教育の関係はどう変わった?
芸能人が大学へ進学するメリットとデメリット
かつて若いうちから活躍をはじめた子役やアイドルの多くは、進学のため芸能活動を休業したり、逆に芸能活動をつづけるために進学しない道を選んできた。しかし近年は子役やアイドルに限らず、10代後半や20代前半から活躍する若手俳優も増えている。彼らにとって大学進学は人生の大きな決断の1つだ。芸能人が大学へ進学することには、どんなメリットとデメリットがあるのだろうか。
デメリットは言うまでもなく、仕事と学業の両立の難しさだ。スケジュールの調整はもちろん、有名であるために登校が難しいということもあるかもしれない。1999年に早稲田大学に進学した広末涼子は、多忙のため入学から3カ月登校できず、批判を浴びた。そして初登校時には大学にマスコミが殺到し、パニックが起こってしまったのだ。もちろん彼女自身に非はない。人気と注目度が高すぎたために、周囲が仕事と学業を両立させてくれなかったと言っていいだろう。その後彼女は女優業に専念するため、大学を中退している。こうした周囲の反応は、現在の芸能人の進学状況を見る限り、改善している印象を受ける。一方で、もし学業を優先して仕事をセーブした場合、その後のキャリアがどうなるかの保障はない。メディアに出つづけなければ、忘れられてしまう可能性もあるのだ。
では、芸能人が大学へ進学することのメリットにはなにがあるだろう。その1つは、やはりアカデミックな世界に触れられることだ。学問をするということは、普段なにげなく生活しているだけではわからないことを多く気づかせてくれる。広い視野と、さまざまな状況に置かれた人に共感できる想像力を得ることもできる。それは俳優にとっては、演技に必要なスキルの底上げにつながるのではないだろうか。また学生生活をともに送った友人は、その後の人生においても大切な存在となるだろう。しかし今ここで挙げたメリットは芸能人に限ったことではなく、われわれ一般人も含めて、高等教育を受けることそのもののメリットと言える。
芸能人ならではのメリットはなにかと考えてみると、その話題性がメインになるかもしれない。“箔がつく”と言うと学歴偏重主義的だが、先ほど例として挙げた芸能人たちの進学先が有名大学や難関大学が多いことを考えると、努力して入学したからには中退してしまうのはもったいない。また芸能人の場合は事実がどうであれ、AO入試や推薦入試などで比較的ラクに入学したと思われがちだ。時間をかけても卒業することで、好感度も上がるだろう。また有名大学を卒業していれば、そのイメージによって仕事の幅も広がる。櫻井翔は、ニュース番組のキャスターとしても活躍し、後輩にもその道を開いた。
海外俳優の大学進学事情
一方で海外の俳優たちの進学事情どうなっているのだろうか。子役出身の高学歴女優としてもっとも有名なのは、『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー役で世界的に人気を獲得したエマ・ワトソンだろう。海外では子役の勉強に遅れが出ないよう配慮する規定が設けられている国が多く、彼女は共演者のダニエル・ラドクリフやルパート・グリントらとともに、撮影現場で家庭教師から指導を受けていた。そして2006年にイギリスの義務教育修了試験GCSEを受験し、10科目中8科目がA+評価、2科目がA評価という優秀な成績を収める。同試験は大学の適性試験も兼ねているため、この成績でどのレベルの大学が適切か判断できるのだ。
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ケンブリッジ大学やイェール大学など錚々たる名門校に合格した彼女は、2009年にアメリカの名門ブラウン大学に入学。キャリアと両立させるため、休学を挟んで3年次には同大学と提携している英オックスフォード大学に一時的に編入するなど、さまざまな対策を講じて学業をつづけた。そして4年次にはブラウン大学に戻り、2014年に卒業。その間にもワトソンは映画『ウォールフラワー』(2012年)や『ブリングリング』(2013年)などに出演している。多忙さからヘリコプターでキャンパスに降り立ち、学生たちを驚かせたこともあったという彼女だが、2013年のインタビューで語ったところによると「キャンパスでサインをねだられたことはない」という。その後は聡明なイメージを活かし、フェミニズムの活動家としても知られるようになった。
『アイ・アム・サム』(2001年)で天才子役としてブレイクしたダコタ・ファニングも、2010年にニューヨーク大学に進学している。彼女も在学中『トワイライト』シリーズに出演するなど俳優業で多忙のため休学したり、逆に学業に専念するため仕事をセーブしたりとバランスをとりながら無事に卒業した。
一般的に海外の大学は日本に比べて授業がハイレベルで、膨大な量の課題をこなさなければいけないと言われている。名門大学ともなればなおさらだ。そんななか、学業とキャリアを両立させた彼女たちの努力と苦労はどれほどだっただろうか。やはり日本の芸能人と同じく休学などを挟みつつ、強い意志を持って学業に励んだのだろう。
教育は誰にとっても大切だ。若くしてキャリアを築きはじめた芸能人たちも、その人生を豊かにするために教育を受ける権利がある。学業と仕事を両立させている芸能人が増えたのは素晴らしいことだ。芸能人の大学進学者はこれからも増えていくだろう。そして時間がかかってもきちんと卒業したことは、どんな場面でも本人にとって自信となり、見ている側にも勇気を与えてくれるのではないだろうか。
■瀧川かおり
映画ライター。東京生まれの転勤族。幼少期から海外アニメ、海外ドラマ、映画に親しみ、10代は演劇に捧げる。