『おちょやん』宗助が寄り添った父親の気持ち 千代の決心は動く?
千代(杉咲花)の父、テルヲ(トータス松本)が芝居茶屋「岡安」に現れた。ボロボロの身なりのテルヲは千代にこれまでのことを謝りたいと言うが、千代は「どちらさんだす?」と冷たくあしらう。NHK連続テレビ小説『おちょやん』が第15週初日を迎え、千代を娘同然に優しく支えてきた宗助(名倉潤)の思いが印象的な回となった。
テルヲが千代にしてきたこれまでの仕打ちは、到底許されるものではない。テルヲは「いつぞやは、どえろう迷惑かけてしもてほんますまんこってした」と土下座するが、節子(仁村紗和)が言い放った「今さらどの口が言うてんねんな!」にうなづいた視聴者は少なくないはずだ。
そんな中、テルヲを受け入れなかった千代に、宗助は「ちょっとかわいそうやないか?」と言う。宗助の言葉にお茶子たちが思わず振り向いたように、視聴者も彼の台詞に動揺したのではないだろうか。テルヲが現れた翌日も、宗助は千代とテルヲの仲を心配する。
しかし宗助は決してテルヲに肩入れしているわけではない。宗助がテルヲを気遣うのは、娘を持つ父親の気持ちに寄り添ってのこと。千代を心配し「千代は娘同然なんやさかい」と言う宗助の目は千代を捉えているが、「テルヲさんの気持ちも分からんでもないのやけどなあ」と口にする宗助の目は伏せられている。名倉のさりげない視線運びによって、宗助はあくまでも、同じ父親としての思いを語っただけなのだとわかる。
温和で優しい性格の宗助は、柔らかい物言いから押しに弱い印象があった。だが、千代の実の父、テルヲと対峙した宗助の印象は違う。「ほんまに隠し事はあれしまへんのか?」とテルヲに念を押すと「また千代泣かせるようなことしたら、わし承知せえへんさかいな」と言い切った。人によって態度を変えるテルヲは宗助に横暴な態度を取り始めるが、それに身じろぐことなく凛とした姿勢を崩さなかった宗助からは、千代の幸せを願う「父親」としての凄みが感じられた。
トータス松本演じるテルヲの表情も相変わらずインパクトが凄まじい。千代にだけ向ける無邪気な笑顔は、これまでの行いを思い出すと、その悪気のなさに恐ろしさを感じる。けれど物語終盤、テルヲの死期が近いことが明かされると、医者や周囲の人々に見せる表情との差異に割り切れない気持ちになる。
これまで父を許そうとしてきた千代が「許さない」と心に決めてから、死期が迫る父が現れる展開は心苦しいが、千代の決心に感じられる第15週のタイトル「うちは幸せになんで」をよりどころに、今後の物語を追っていきたい。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/