『劇場版ポルノグラファー』は完璧な実写化に 純文学のような美しく繊細なラブストーリー

 2013年のある日、1人の友人が見たこともない深刻な顔でBL好きであることを打ち明けてきたことがある。あまりにも突然の告白でうまく反応できなかったが、いわゆる“腐女子”と呼ばれる人たちは当時それほど肩身の狭い思いをしていたのだろう。

 あれから8年が経った今、BL市場は日々拡大している。特に2020年はその勢い凄まじく、商業BLコミックが続々と実写化されヒットを記録。『2gether』をはじめとしたタイのBLドラマも、コロナ禍を背景に世界的な人気を博した。

 かくいう私も、2018年に放送されたドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)をきっかけにBLジャンルの映像作品に注目するようになった。同作は舞台となる「天空不動産」で田中圭、林遣都、吉田鋼太郎といった豪華俳優陣が出演。彼らが演じるキャラクターたちが繰り広げる社内恋愛をコミカルに、それでいて人を好きになることの尊さや苦しみを真剣に描いた。笑って泣けて心温まる純度の高い恋愛ドラマとして深夜枠ながら幅広い層の視聴者を獲得したこのドラマは、間違いなく多くの人がBL作品にハマるきっかけを作ったと言えるだろう。

 ただ一口にBLと言っても内容は千差万別で、例えば水城せとなの傑作コミックを大倉忠義と成田凌で実写化した映画『窮鼠はチーズの夢を見る』は、常に受け身だった主人公が同性の後輩から告白され、戸惑いながらも“本当の恋”を知るまでの過程を上映後も余韻がしばらく抜けないほど切なく描いた。

 一方、通称“チェリまほ”として昨年大ヒットした豊田悠原作のドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京ほか)は、主人公が“触れた人の心が読める魔法”を手にするというファンタジーな設定を前提としているが、その力でイケメンの同期が自分に想いを寄せていることを知り、一歩踏み出す勇気を得ていく姿や2人の揺れ動く心を丁寧に描写。

 またBLというジャンルの範囲を広げるならば、西島秀俊と内野聖陽がゲイカップルを演じたドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京ほか)は周囲(特に親)に関係性を受け入れてもらう上で伴う困難にも向き合い、穏やかに多様性を意識させる革新的な作品だった

 このように作品によって描き方は様々だが、近年のBL作品はどれも共通して、登場人物たちが恋愛を通じて向き合わざるを得ない人としての葛藤をあぶり出していく。

 2月26日に公開される『劇場版ポルノグラファー ~プレイバック~』もその一つ。本作は、竹財輝之助と猪塚健太をW主演に迎え、丸木戸マキによるBLコミックを実写化したドラマシリーズ『ポルノグラファー』(FOD)の劇場版だ。

 竹財演じる官能小説家の木島理生に、猪塚演じる大学生・久住春彦が事故で怪我を負わせてしまい、久住が“口述筆記”で官能小説を代筆するという奇妙な出会いから始まる2人の恋を描いた『ポルノグラファー』は、BL漫画原作初の連続ドラマとして話題を呼び、FODで史上最速の100万回再生を突破。続く、木島と吉田宗洋演じる編集者・城戸士郎の関係性に迫った2作目『ポルノグラファー~インディゴの気分~』も人気を博し、続編を希望する声に応えて映画化が実現した。

 特筆すべきは、原作の完全な再現性である。ドラマシリーズはどちらも原作と同じく全6話で構成。その中で描かれたのは、久住が木島に出会い、彼に抱く性欲をともなった駆り立てるような熱情や、城戸の登場で生まれた嫉妬心。そして、近づいたと思ったら離れる木島の気まぐれに翻弄される純粋な若者の姿だった。

 一方で、人生の酸いも甘いも噛み分けた木島は最初こそ久住のことをからかっていたが、まっすぐ向けられた思いに少しずつ心動かされていく。複雑に絡み合った2人の感情は、性別に関係なく誰もが抱いたことのあるものだろう。『ポルノグラファー』は官能小説の口述筆記を起点に、純文学のような美しく繊細なラブストーリーを描くという他にはない新しさがある。

 劇場版では晴れて恋人同士となり遠距離恋愛を続けていた木島と久住が、久住の就職をきっかけにすれ違い、2人の未来について葛藤する姿を、ドラマシリーズで演出と脚本を担当した三木康一郎監督が引き続き美しい映像とともに映し出していく。本作が他のBL作品と一線を画すのは、まごうことなきラブストーリーでありながら、これは鬼島蓮二郎(木島のペンネーム)という一人の小説家が挫折し、拭いきれない孤独と対峙していく物語でもあるということだ。

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