人魚と男のファンタジックな恋愛物語 『マーメイド・イン・パリ』で取り戻す心のときめき
恋を知らない人魚・ルラの愛らしさ
ルラが美しい歌声で男たちの命を奪うのは、人魚として唯一身を守る方法でもあった。それはつまり、ルラ自身が恋の喜びを知ることは不可能だという悲しい運命を意味している。恋が何かも知らないまま、ルラはガスパールの優しさに心を開いていく。外の世界に触れたことがないルラにとって、ガスパールが見せてくれる様々なパフォーマンスはまるで夢のような時間だった。自宅のバスタブでおもちゃを不思議そうに見つめる眼差し。映画を興味津々にのぞく愛らしいルラの姿を見れば、その歌声の魔力がなくともきっと心を奪われるに違いない。
さらに、ガスパールの隣人・ロッシが2人の恋を見守るキーパーソンとして大活躍。ロッシがルラにガスパールの過去について話を聞かせるシーンは、観客である私たちもまるで女子会に参加したような心躍る場面だ。
この世界のキラキラとしたものの中で、“初めての恋”というものは特別な輝きを見せる。これまで1人きりで生きてきたルラにとって、初めて知った恋。しかし、相思相愛になることは、そのまま相手の死を意味する。そしてルラもまた、長くは陸上で生きていくことはできない。一緒にいることが許されない2人の恋の結末は……ぜひスクリーンで見届けてほしい。
美しい映像で、スクリーンが巨大な絵本に
そしてこの作品の最大の見どころとも言えるのが、フランス映画らしいエスプリが効いたロマンチックな映像の数々。飛び出す絵本が物語の重要なモチーフになっているように、オープニングからキュートな演出が満載だ。
また、ガスパールの部屋もまるでおもちゃ箱のなかに入ったような可愛らしい空間で、作中でもガスパールがルラを楽しませようと見せたファンタジックなショーに思わず心が弾む。さらにロッシの部屋のバスルームも女子ならば憧れずにはいられないかわいらしさ。まるでこの作品そのものが、スクリーンに映し出される飛び出す絵本のような楽しさなのだ。
今は残念ながら、なかなか遠出もできず、多くの人が集まるショーも開催されにくいご時世だ。どうしても生きることに必死になりすぎて、私たちはガスパールのようになっている気がする。
「ときめきやキラキラを忘れかけてしまっているかもしれない……」そんなふうに感じる方も少なくないはず。だが、きっとこの映画を見れば、世の中キレイごとばかりではないけれど、それでもどこか心が少し潤うような気分にさせてくれるはずだ。現実から少しだけトリップすることができる、「こんなご時世」だからこそキラキラをくれる大人の絵本を堪能してほしい。
■公開情報
『マーメイド・イン・パリ』
2月11日(木・祝)新宿ピカデリーほか全国公開
監督:マチアス・マルジウ
出演:ニコラ・デュヴォシェル、マリリン・リマ、ロッシ・デ・パルマ、ロマーヌ・ボーラ
ンジェ、チェッキー・カリョ
配給:ハピネット
配給協力:リージェンツ
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
原題:Une sirene a Paris/2020/仏/102分/G
(c)2020 – Overdrive Productions – Entre Chien et Loup – Sisters and BrotherMitevski
Production – EuropaCorp – Proximus
公式サイト:mermaidinparis.jp