リアリティ番組として見せる本当のアジア人の姿と文化 Netflix『きらめく帝国』の意味深さ
年々高まる、作品におけるレプレゼンテーションの重要性
先に紹介した『クレイジー・リッチ!』は、キャストのほとんどがアジア人またはアジア系アメリカ人で占められ、アジア系の製作陣に作られた作品としては1993年に公開されたウェイン・ワン監督作『ジョイ・ラック・クラブ』以来、初となる。映画業界の中で、アジア人の立場はとても低かった。黒人の次に登場人物として挙げられるのが少ないし、偏見まみれの描き方までされる始末。そして何より、アジア人が“アジア人”として一緒くたにされてきたことが問題だった。
『ティファニーで朝食を』のユニオシがいい例だ。日本人役のはずなのに、演じたのは生粋のアメリカ人俳優であるミッキー・ルーニー。1915年に公開された『蝶々夫人』の中で長崎の没落藩士令嬢の蝶々夫人を白人のメアリー・ピックフォードが演じた時から、白人が顔塗りなどをしてアジア人になりきって出演することは少なくなかった。これは「黒塗り」と一緒のことだ。そして34年から実施、68年まで存続したヘイズ・コードにより、それらは禁止されたが、それ以降には違う問題が生まれた。
何度、海外作品の中に日本人を見つけて「おっ!」と思って、役者が話した瞬間、それが“本当に”日本人じゃなかったことに落胆したことか。韓国人のキャラクターを中国人俳優が演じる。日本人のキャラクターを韓国人が演じる、そういった具合にアジア系のキャラにはとりあえずアジア人をキャストしとけばいいだろう、と言っているようなものだ。それは、映画の世界に限らず一般社会のコモンセンスにおけるアジア人の認識の甘さからきている。
この問題は非常に根深い。だからこそ、『きらめく帝国』の意味深さはここで光る。登場する彼らは、韓国、台北、シンガポール、北京、ベトナム、台湾、ロシアと日本のミックスと、様々な出身地のアジア人が集結している。そして番組内で、それぞれの人種の文化や慣習、考えなどが自然な形で紹介されているのだ。信仰やスピリチュアルなものに対する考え、嫁いだ女性が男の子を産まなければいけないという考え、家族に対する考えなど、それはとても細分化されている。
また、主人公的立場のケヴィン自身が生まれて間もない時にアメリカの里親に出された、韓国人養子であることも一つ深みを与えている。韓国の養子縁組はとても多く、半世紀に渡って20万人以上もの子供が国際的に養子に出されたと言われている。しかし、ケヴィンが番組内で打ち明けるよう、そういった彼らはアイデンティティー・クライシスに陥りやすい問題がある。自分はアメリカ人なのか、韓国人なのか。筆者自身、日本とベルギーのミックスなわけだが、これは本当に本人にとって一生かかる重要な問題なのである。
しかし、同じような悩みを抱えた、同じ人種の存在がレプレゼンテーション(代表)としてテレビなどにメディア露出することで、そういった葛藤を抱えている人が「私だけじゃない」と思えるのだ。自国だけでなく、世界という舞台でこれまで特にアジア人は、こういったレプレゼンテーションが少なかった。だから『クレイジー・リッチ!』は大ヒットしたし、それを受けて『きらめく帝国』の製作総指揮を務めたジェフ・ジェンキンスは「映画だけでなくテレビ番組にも必要」という考えで本シリーズに乗りきった。彼は何を隠そう、冒頭で触れた『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』や『シンプルライフ』を手がけた張本人でもある。
音楽シーンでも、ドラマシーンでも、アジア初のコンテンツが世界的に今ヒットしている。そんな中で、リアリティショーという一件ゴシップ寄りな見せ方でありながら、これまで描かれてこなかった細分化された本当のアジア人の姿と、その文化を映した『きらめく帝国』の意味深さは、今世界中のアジア人の心に届いているように思える。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。昼過ぎからシャンパン飲みたい。Instagram/Twitter
■配信情報
Netflixオリジナル『きらめく帝国 〜超リッチなアジア系セレブたち〜』
Netflixにて独占配信中