バカリズム、『劇場版 殺意の道程』に込めた笑いの“フリ” 井浦新のシリアスさを巧みに起用
「井浦新さんのファンの方は、ちょっとビックリするかも」
――本作のいちばんの面白さは、やはり井浦さん演じる「一馬」とバカリズムさん演じる「満」の軽妙なやりとりですよね。
バカリズム:井浦さんがいると、画面に説得力が出るんです。井浦さん自身、どこかシリアスな雰囲気をまとっている感じがあって。それがちゃんと「フリ」になっているというか、井浦さんのあの声のトーンでおかしなことを言うと、よりおかしく聞こえる(笑)。そこは、この作品の中でも、強いところですね。
――井浦さんの淡々としたモノローグで話が進んでいくわけですが、そもそも「誰に向かってしゃべっているんだろう?」とか、ちょいちょい突っ込みどころがあるというか。
バカリズム:井浦さん的にはやっぱり、今までにないタイプの作品だったみたいで……というか、芸人の僕が脚本を書いているし、基本的にはコメディなので。だから最初は、リハーサルでいろんなパターンを試したりして「ここはこうしたほうがいいのかな?」「もうちょっとおかしくやったほうがいいのかな?」と結構考えたらしいです。でも、監督に「井浦さんは、いつも通りシリアスな感じでお願いします。そのほうが、より面白くなるので」と抑えられたようで(笑)。そこで自分の芝居を調整していったとおしゃっていました。
――井浦さんは、あまりコメディの印象がないですけど……ただ、普段の様子や発言を見ていると、ちょっと面白いところがあるというか、いわゆるクールなタイプではないですよね。
バカリズム:そう。実は最初からもう、一馬役は井浦さんでお願いしたいと思っていたんです。井浦さんがあった上での台本執筆だったし、「当て書き」で書いていった部分があって。書いている途中で「井浦さんに決まりました」と連絡をいただいて、なんとなく頭の中で井浦さんの顔を思い浮かべながら一馬の台詞を書いていたし、井浦さんの顔と声でこの台詞を言ったら面白いだろうなって。実際撮影に入ってから、空き時間にしゃべっていても、普段からちょっと一馬っぽさを感じていました。
――基本的に真面目で、芝居についても熱心な方だと思いますけど、ときどきちょっと面白いんですよね。
バカリズム:そう、ちょっと面白いんですよ。すごく真面目で、台本も読み込んできてくれて、「バカリズムさん、僕は思ったんですけど、この作品はサスペンスコメディであると同時に、ヒューマンドラマでもあると思うんですよ」と言ってくれたりするんです。でも、僕は全然そんなつもりはなかったので、「この人、何を真剣に語り出したんだろう……」って思いながら、「まあ、そうかもしれないですね」みたいな感じで、適当に返したんですけど(笑)。
――まさに、本作における「一馬」と「満」のやりとりのような。でもそこが、井浦さんのチャーミングなところですよね。
バカリズム:そうなんですよね。すごく真面目というか、作品への向き合い方もすごい真剣で。だから、今回の役どころにはピッタリだったと思います。
――まさしくハマり役だったと思います。そう、これまでさほど接点があったようには見えませんでしたが、そんな井浦さんに、よくぞ目をつけましたね。
バカリズム:もちろん、ほとんど同世代なので、僕が学生の頃からモデルさんをやっていて、その存在は知っていました。ファッション誌に出ている、個性的なちょっと尖っている印象のあるモデルさんだなというが当時の印象で、そこから俳優をやられるようになって、僕も多分何作か観ていると思うんですけど。今回の作品は、具体的に何かを見て、井浦さんの面白いところを「見つけた!」という感じではなく、僕が勝手に「こういう感じなんじゃないか?」と思って書いてみたら、まさにそういう人だったという感じでした。
――さすがの人物眼ですね。井浦さんも、最近はいろいろな役をやられていますけど、ここまで面白い役は初めてというか、井浦さんの素の面白さやチャーミングさが、ここまで反映された役は、多分今回が初めてだったのではないかと。
バカリズム:そうなんですかね。だとしたら、井浦さんのファンの方は、ちょっとビックリするかもしれないですよね。今回の一馬という役は、「服がダサい」とか、満にめちゃめちゃいじられたりしているので。
――バカリズムさん演じる「満」の「一馬」いじりというか、そのツッコミとボケのバランスが非常に良くて……2人のやりとりを、ずっと見ていたいと思ってしまいました。
バカリズム:ドラマや、自分が観る番組もそうなんですけど、「面白い」「感動した」という作品も大事だけど、ずっと見ていられる作品が好きなんです。だから、これまでの自分の作品――『住住』、『架空OL日記』にも、笑いどころは作っているんですけど、それ以上に、何かずーっと見ていられたり、繰り返しつけっぱなしで見ていたいとか、そういうものを意識して作っているところがあります。
――なるほど。多くの人に愛されるドラマって、必ずしも物語そのものが愛されているわけではなく、それ以上に登場人物たちが醸し出す「空気感」みたいなものが愛されていたりするものですよね。
バカリズム:意外とそうだったりしますよね。たとえば、『あぶない刑事』も、舘ひろしさんと柴田恭兵さんの2人がしゃべっているところを、ずっと見ていたくて。なんとなく見ていて、その会話に自分が参加しているような気分になったり、そういうのが楽しいのかなと思います。