ダメ親父なのに再登場を期待してしまう!? 『おちょやん』トータス松本が見せる人間臭さ

 『おちょやん』(NHK総合)名物とも化しているのが、主人公の竹井千代(杉咲花)の父親・テルヲ(トータス松本)の神出鬼没な登場シーンである。

 朝ドラ史上でも相当なダメ父親ぶりで、ろくに仕事もせずにお酒に溺れ、幼少期の千代に家事も仕事も全て任せっきり。そのため千代は学校にもほぼ通えず、挙句新しく連れてきた母親のせいでついに奉公に出されてしまう。そしてようやく見つけた千代のホームとも言える、道頓堀の芝居茶屋「岡安」にも8年ぶりにノコノコと現れたかと思いきや、借金返済のために千代をまた別の店に奉公に出させようと企む。借金取りとテルヲから逃れるために千代が行き着いたのが京都の鶴亀撮影所。そこで女優としての歩みを始め、ようやく安定的に役がもらえるようになってきた頃にまたテルヲが現れてしまうのだ。

 と、これまでの流れを振り返ってみても、やっぱり最低で疫病神のようなろくでもない父親に違いないが、そんなテルヲ役にトータス松本を据えたキャスティングはお見事とも言える。まるでトータス松本が持つ魅力を逆手にとっているかのようだ。

 ここまで“ダメダメ”であればとっくの昔に野垂れ死んでいて不思議はないが、口だけは達者で相手に束の間夢を見せ、なんだか憎めない“人たらし”で、計算がなく野生児なテルヲはトータス松本本人とも通ずるところがあるだろう。だから、千代も岡安に来た父親のことを最初は歓迎したし、それゆえに父親の本当の目的に気づいて傷ついたのだ。千代にとってはどうしたって見捨て切れず憎み切れない存在で、その“ろくでなし”には違いないが決して“人でなし”ではない、少なくともそう信じたいと思わせる絶妙な塩梅、バランスはトータス松本だからこそ、奇跡的に取り続けられている綱渡り的なポジショニング具合だと心底思う。それに千代の心の支えでもある亡き母親が伴侶に選んだのがテルヲであり、また同じようにそんな女性を伴侶にしているあたりにもテルヲの心根の優しさが見え隠れし、そして最初の妻の死による喪失感がずっと付き纏っているようにも思える。

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