高橋一生×森下佳子のキーワードは“月” 『おんな城主 直虎』から『天国と地獄』へ続く“宿命”

 いよいよ新日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』(TBS系)が放送される。綾瀬はるかと高橋一生が、まさかの「入れ替わり」に翻弄される刑事とサイコパスを演じる。そして、そんな彼らを取り巻くのが、近年最も色気のある俳優、柄本佑と北村一輝。それだけでワクワクせずにはいられない。演技力の極めて高い4人が一体どんな「心と体の大逆転物語」を魅せてくれるのだろうか。

 何より気になるのは、森下佳子のオリジナル脚本であるということ。『世界の中心で、愛をさけぶ』から、『白夜行』、『JIN‐仁‐』、『義母と娘のブルース』(いずれもTBS系)に至るまで、綾瀬はるかとのタッグで生まれた傑作ドラマは数多ある。こうやって列挙していくと、どれも綾瀬はるかを語る上で欠かせない、常に代表作を更新し続けてきた彼女の核となる作品群であることがわかる。そして、『天国と地獄』もまた、それに続く傑作となる予感しかない。

 今回最も注目するのは、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』で小野政次を演じた高橋一生×脚本・森下佳子という組み合わせだ。『直虎』以降、高橋と森下のタッグはこれで3度目である。2度目は、コロナ禍における緊急事態宣言下、テレビドラマ撮影中止期間中に製作された「テレワークドラマ」である『今だから、新作ドラマ作ってみました』(NHK総合)において、柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生という『直虎』チームによって作られた『転・コウ・生』である。この3作品の森下佳子作品における高橋一生には、ある共通点がある。それは、「月」である

 『おんな城主 直虎』の直虎(柴咲コウ)は、表向きは不仲のフリをしなければならなかった幼なじみで同志である政次と、よく碁を打っていた。2人の平穏の最後の場面となった、第32話での月明かりの下での碁の場面は未だに忘れることができない。「もうじき日の光の下で打てるようになる」という、彼らの夢は叶わないままだった。物語も後半戦に入った矢先、直虎が自ら彼を殺めることになった、あまりにも過酷すぎる政次の死に、多くの視聴者が涙したのであった。

 昨年放送された『転・コウ・生』は、それぞれが本人役の入れ替わり劇ということで、『直虎』とは一切関係ないのであるが、猫になり代わった高橋が「殿、どうもご無沙汰してます」と柴咲に言う場面があったように、『直虎』ファンに贈る、ある種「再会」を描いた物語だったとも言える。「今日ね、すごく月がきれい」と呟く高橋(心は柴咲)の台詞を契機に、3人プラス猫1匹はそれぞれの場所から、同じ月を眺める。

 また、今回の『天国と地獄』と共に、「入れ替わり」を題材にしたドラマであるというのも注目すべき点である。彼らが入れ替わるたびに、太陽と月が不穏に揺れ、公転していくショットが挿入されていたのも、『天国と地獄』のメインビジュアルと共通する部分がある。

「知っていますか? 本当は月は太陽に、太陽は月になるはずだったんですよ。でも、シヤカナローの花を盗んだから―。月は太陽に、太陽は月になった。運命が入れ替わってしまったんですよ」

 この台詞は、鹿児島の奄美大島に伝わる「月と太陽の伝説」を基にした『天国と地獄』において鍵となる台詞だ。それは、『直虎』における、まるで太陽と月のようだった、直虎と政次の関係から、「月」という意味を背負わされた高橋一生という俳優の、連綿と続く宿命のような物語の、ある種の続きであるような気がしてならないのである。

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