『ソウルフル・ワールド』が伝える人生の醍醐味 ジャズミュージシャンの物語になった理由とは

 ブラッド・バード監督は、アメリカのアニメーション界のなかで、圧倒的に飛び抜けた才能を持ったクリエイターだといってよい。そんな評価もあいまって、作品の内容が一部から「“選民的”だ」と批判される場合もある。しかし、ディズニー映画『トゥモローランド』(2015年)では、“悪い狼”と“善良な狼”という概念を押し出すことで、才能があっても世の中にとって悪いことをすれば逆効果だということを描いている。その考え方であれば、個々の能力に違いはあれ、画期的な物理理論を完成させることから近所のゴミ拾いに至るまで、世の中を少しでもより良い方向に進ませる者は全てヒーローになれるはずだ。バード監督はそこに人間の“生きる意味”を見出している。この点について考えるなら、『ソウルフル・ワールド』の、多くの人々に生きる意味を与えようとするピート・ドクター監督の民主的な哲学は、悪人の人生にすら意義を与えてしまうおそれがあるといえよう。

 劇場アニメーション作品は大勢の才能や能力を、長い時間をかけてかたちにするものだ。とくに膨大なリソースが割かれるピクサー作品は別格である。だから、現代を生きる多くの観客にとって意義があるような哲学的な要素を込めたいというのが、中心となるクリエイターの心情であるだろう。高畑勲監督や宮崎駿監督、庵野秀明監督など、作家的な日本のアニメーション監督も同様の想いに突き動かされているはずだし、突き動かされていたはずだ。そこで表現される哲学は、もちろん人それぞれで、観客が同調できるものも、できないものもあるだろう。しかし重要なのは、そのような哲学が存在するということ、そのものではないだろうか。このように考え抜かれた思想があるからこそ、われわれは作品を観て人生観を揺るがされたり、生きる上での気づきを与えられるのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『ソウルフル・ワールド』
ディズニープラスにて独占配信中
監督:ピート・ドクター
共同監督:ケンプ・パワーズ
製作:ダナ・マレー
(c)2021 Disney/Pixar.
公式サイト:Disney.jp/SoulfulWorld

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