『えんとつ町のプペル』にみるSTUDIO4℃の熱量 『鉄コン筋クリート』に通じる衝撃とは

『プペル』にみるSTUDIO4℃の熱量

作り込まれた設定からくる心地よさ

 町もすごければ、キャラクターもすごい。中でも圧巻なのは、「プペル」の設定だろう。キャラクターデザインを担当したのは、『迷宮物語』や『Genius Party』の福島敦子氏。彼女は、ゴミ人間プペルの体がどんなもので構成されているのか明確にパーツをリトアップし、左右非対称でありながらもバランスの取れたデザインにしたそうだ。

 原型を留めたゴミが骨格を作っているから、各パーツの弱点や強みがなんとなくわかる。しかもパーツが微妙に動くようになっていて、モーションのたびに緩んできていたり、脆くなっているのがわかる。ゴミ人間にわざわざ語らせなくても、体全体が、ゴミ全体が物語や背景を語っているのだ。これぞ、「語らせるな、見せろ」だ。

 これの対極にあるのが、映画『トランスフォーマー』シリーズのトランスフォーマーたちだ。何がどのパーツを構成しているのかわからず、とにかくビジュアルと迫力重視だ。それがいけないとは言わないが、非常にもやっとくるものがある。『バンブルビー』のハズブロのおもちゃよろしく、明瞭設定になった時は、角と角がピタッと合わさった時の爽快感ににたものを感じた。

 今回のプペルは、ここのパーツにその背景を語らせられる分、『バンブルビー』の心地良さを超えたのではないかと思っている。

STUDIO4℃の歴史に新たなる伝説が刻まれた

 STUDIO4℃の作品は常に進化している。それはスタジオ側が「一番苦労したシーンはここ」と言わずとも、観客が感じ取ることができる。その秘密はなんだろう。

 作品のテイストに合わせて、プロダクションを最初からデザインしなおすからだろうか。一切の妥協を許さない芸術家集団だからだろうか。原作に対する熱量だろうか。きっと、その全てだ。

 とにかく、STUDIO4℃はその歴史に再び伝説を刻んだ。自らの手で自らのハードルをあげてしまった。次は何をするのだろう。どんな世界を見せてくれるのだろう。

 筆者は、画面からビシバシと放たれるSTUDIO4℃の熱意と努力と、きっと何度も流されたであろう涙をひしひしと感じた。そのアツさを感じとり、圧倒され、同時に彼らの次の挑戦を考えて、泣いた。

 映画『えんとつ町のプペル』はすごい作品だ。STUDIO4℃の熱意に当てられたければ、是非劇場に足を運んでほしい。

■中川真知子
ライター。1981年生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。好きなジャンルはホラー映画。尊敬する人はアーノルド・シュワルツェネッガー。GIZMODO JAPANで主に映画インタビューを担当。Twitter

■公開情報
『映画 えんとつ町のプペル』
全国公開中
製作総指揮・原作・脚本:西野亮廣
監督:廣田裕介
OP主題歌:「HALLOWEEN PARTY -プペル Ver.-」HYDE(Virgin Music)
ED主題歌:「えんとつ町のプペル」ロザリーナ(ソニー・ミュージックレーベルズ)
声の出演:窪田正孝、芦田愛菜、立川志の輔、小池栄子、藤森慎吾、野間口徹、伊藤沙莉、宮根誠司、大平祥生(JO1)、飯尾和樹(ずん)、山内圭哉、國村隼
アニメーション制作:STUDIO4℃
原作:『えんとつ町のプペル』にしのあきひろ著(幻冬社刊)
配給:東宝=吉本興業共同配給
(c)西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
公式サイト:poupelle.com

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