野木亜紀子と考える、『逃げ恥』が愛される理由 「“ムズキュン”は、距離感への切なさ」

『逃げ恥』で視聴者を魅了した「ムズキュン」は、距離感への切なさ


――『逃げ恥』が、これだけ多くの人から愛される作品になった理由を、野木さんとしてはどのようにお考えでしょうか?

野木:やはり原作の持つ新規性のある面白さと、あの時期の新垣結衣と星野源という絶妙さというのもあったと思います。たぶん、今のタイミングで連続ドラマとしてスタートしていたとしたら、また違うことになっていたかもしれないなと。金子(文紀)監督の演出も冴えていましたし、星野さんの主題歌も「恋ダンス」も、ぴったりマッチしていましたし、複合的にいい気流みたいなものが出来上がったのだと思います。そういういい流れというのは、意図して頑張ってもなかなか作れるものではなくて。そのとき、その時流に、たまたまうまいこと乗ったら、すごい上昇気流に繋がるというものなので。狙ってもう1回それができるかといったら、難しいと思いますね。新垣さんが「いろいろなピースがパチっとハマったようなドラマだった」と言っていて、なるほどそうだねって思いました。

――那須田プロデューサー、金子監督のインタビューでは「連続ドラマに比べて、スペシャルドラマではキュン要素は少し減る」という話をされていました。

野木:金子監督は連続ドラマの顔合わせから「ムズキュンを見せたい」って張り切っていましたからね。でも、今回はもう妊娠・出産という家族の話になっているので、そりゃ「キュンキュンしてる場合じゃない」っていう(笑)。そもそも私の中では『逃げ恥』を、人間と人間のディスコミュニケーションの話だと思っていて。つまり、隣にいてもわかり合えないとか、やっぱり別々の人間だからみんな違うことを思っているよね……とか。近づこうとするんだけどうまくいかない、その距離感に切なくなるのかなと。

――今回のサブタイトルにある「ガンバレ人類」は野木さんが書かれた台本の中から、那須田プロデューサーが「いただきました」というお話をされていました。

野木:初稿か再稿くらいで、勝手にサブタイトルを書いてしまったんですよ。とりあえずで。そうしたら、みんな「それがいいじゃん」っていうので、そのまま決まっちゃったという感じです。サブタイトルの意味は、ぜひ観て考えていただければと思います。

新垣結衣、星野源の「普通力」が、『逃げ恥』のキーに


――新垣さん、星野さんとは、『逃げ恥』のみならず、『獣になれない私たち』『MIU404』をはじめ作品を作り上げていらっしゃいますが、改めておふたりの魅力について聞かせてください。

野木:それぞれ異なる魅力があると思うんですが、共通しているのは「普通」をうまく演じられるというところです。新垣さんはあんなに可愛くてキラキラしているのに、星野さんは今をときめくポップスターなのに、素朴で普通な人をちゃんと演じているなと。何かふたりの持つ「普通力」は、見過ごされがちですけれど、『逃げ恥』にはかなり生かされている要素だと思います。

――現場で、おふたりにお会いしたときのエピソードはありますか?

野木:新垣さんは「私、みくりになれるかしら」っておっしゃっていましたけど、収録が始まるとちゃんとみくりになっていましたし、いい意味で変わっていないなと思いました。星野さんは『MIU404』で志摩の役を演じているのを見た直後に、平匡バージョンでお会いしたんですよ。思わず「誰? 志摩どこ行ったの?」と爆笑してしまいました。本当に別人になっていて、すごいなと。役者さんってそういうお仕事だとわかってはいましたけれど、目の当たりにすると衝撃でしたね(笑)。

――『MIU404』でも2020年を描く場面がありました。新春スペシャルドラマでも、現実と繋がっているストーリーが展開されるとお聞きしました。野木さんにとって2020年はどんな1年になりましたか?

野木:本当に大変な年でしたよね。個人的には、2011年に起こった東日本大震災も日本の大きな転換点になったと思っていたんです。あれから約10年、その清算ができていないまま、何も解決しないまま忘れ去られようとしているのが、私はものすごく気持ちが悪くて、いかがなものかと思っていたところに、この2020年がやって来てしまった。ああ、これでまた澱がさらに積み重なったと。日本だけではない、世界の転換点が来てしまったなと思っていて、本当にどうしましょうね、という感じです。でも、きっと良くも悪くも日本だけではないということも含めて、もっといろんなことを自分たちで考えて生きていかなきゃいけないし、作っていかなきゃなという気持ちになりました。

――2021年、新しい年の幕開けを『逃げ恥』で迎えられるのは、多くのファンにとって希望になると思います。

野木:ありがとうございます。そんな真面目なことを言っておきながら、「ガンバレ人類」なんてポップなサブタイトルで大丈夫なのかって感じですけど(笑)。観ていただければ何かわかっていただけると思うので、みなさんぜひ観てください!

■放送情報
新春スペシャルドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』
TBS系にて、2021年1月2日(土)21:00〜23:25放送
出演:新垣結衣、星野源、大谷亮平、藤井隆、真野恵里菜、成田凌、古舘寛治、細田善彦、モロ師岡、高橋ひとみ、宇梶剛士、富田靖子、古田新太、石田ゆり子、西田尚美、青木崇高、滝沢カレン、池谷のぶえ、ナオト・インティライミ、金子昇、Kaito、前野朋哉
原作:海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社『Kiss』所載)
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:那須田淳、磯山晶、峠田浩、勝野逸未
演出:金子文紀
音楽 :末廣健一郎、MAYUKO
主題歌:星野源 「恋」(スピードスターレコーズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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